296.砦の始末と過去話
「コータ様」
「それは……」
スティとシーラが、俺たちに話しかけてくる。ヴィオンとの会話の間、ずっと部屋の外で待っていてくれたらしい。ありがとな。
だから俺も、説明しないと。
「前の戦争終わってから、ずっと俺を待ってたんだって。これ、クァルードの逆鱗守ってて」
「遺していたのですね、あやつめ」
俺が見せたクァルードの逆鱗を見て、くっと喉の奥でスティが笑う。……そういえば彼女、虎というか大きな猫というかなんだから、喉ごろごろやってくれるんだろうか。今度試してみよう。
と、シーラが何かを思い出したように「そういえば」と言葉を漏らした。
「四天王の方々の中でも、クァルード様は特にアルニムア・マーダ様に従っておられました、と当時よくお噂を伺いました」
「誰だ、噂流したの」
「ルシーラットに漏らしたのは私だな。一回だけだが」
「おいおい、何やってるんだ鳥人軍」
シーラの告白に、四天王コンビが漫才コンビになった。しれっとぶっちゃけるルッタと、それに突っ込むスティ。
あー、こういうとこ見るとちゃんと同僚だったんだな、お前ら。つーか、昔も仲良かったんだ、皆。
そこは、一応の上司としてホッとした。クァルードのそんな話できるのも、仲悪かったら無理だろうし。
……で、当の本人はどこにいるんだろうな。絶対探すのめんどくさいぞ。
「それで、この砦だけど」
まあ、いないやつのことを今考えても仕方ないので話を変えよう。そもそも、この東方砦を俺たちの拠点として使えるかどうか、ってのが本来の問題なわけだし。
「入り口に当たる砦まで、衛兵隊の巡回が来る。そいつらを排除しない限り、さすがに拠点としては使いづらい」
「ですな。危なくて」
そうそう。すぐに切り替えてくれたスティが話に乗ってくれたので、そのまま続ける。
「今、俺たちは超少数勢力だ。うっかりバレたら、力で押しつぶされる」
「まだまだ、世界のほとんどが敵である状態ですものね」
「うん」
シーラも頷いてくれたから、俺はあと残ったルッタの方に目を向ける。ヴィオンの逆鱗は、どこからか出した布……タオルか何かで包まれて、彼女の胸元に抱えられていた。
「だから、たまにこっちに出張とかで来たときの宿泊地、として使う分には問題ないんじゃないかな。もう少し勢力が増えてマール教と張り合えるくらいになったときにはちゃんと使ってやりたいから、そのつもりで」
「承知しました」
「分かりました」
「では、隙を見て手入れの人員を派遣します」
四天王二人は即刻返答、シーラはやるべきことを口にする。この辺り、かっちり分業してくれててありがたい。
裏口があるはずだから、そっちから出入りできればなんとかなるだろ。とはいえ。
「ま、グレコロンの屋敷が近いからそっち使うほうが楽っちゃ楽だろうな」
「サンディタウンの領主ですね。……コータ様」
ん、と気がついたようにルッタが俺を見る。ああ、マール教だったときに仕事上のお付き合いとかあったんだろうな。一応、教えとこうか。
「吹き込み合戦やって辛勝した。今んとこ、俺が男に吹き込んだの、あいつだけだ」
「なんと。お疲れ様でございました……」
「……コータ様と同じ能力持ちですか。他にもいるやもしれませんな」
ルッタが感心したように言ってくれたのはともかく、スティのセリフが気になるな。たしかに、俺とあいつだけなはずなかろうし。
次は女の子だったら、全力で勝負して勝つんだけど!




