289.進む彼女とそして俺
どんどんどん、と強いノック音がした。よく扉壊れないな、と思った横からファルンが進み出て、「はい」と外に声を掛ける。ま、あれだけ強いノックだと多分スティなんだけどね。
「バングデスタにございます」
「ルシーラットにございます」
「あ。いいよ、ファルン。開けて」
「はい」
外から名乗ってくれたところにシーラがいたので、ちょっと目を見張る。まあ、話しにきたならちょうどいいや。入らせよう。
『コータ様!』
「あら」
扉開けた途端の見事なハモリに、ファルンが感心したように頬に手を当てた。
で、部屋に入ってきた二人は城内歩いてるときの軽装である。要は鎧とかのない、ボディラインばっちり露出多めスタイル。もっとも、シーラはともかくスティはふさふさふかふかだけど、それはそれで。
さて、この二人が一緒に俺の部屋に来た理由……なんて、さっきの話しかないよなあ。
「カーライル殿から、話は伺いました」
「アルタイラが行方知れずとはまことですか!」
「ああ」
ほらな。
ルッタはシーラの上司でスティの同僚だから、二人揃って心配になるのは当然だろ。俺だって心配だし、何しろマーダ教はまだまだ弱小勢力だし。
「とは言っても今のところ、伝令と離れてしまったってことくらいしか分からない」
「なるほど」
多分カーライルからそれなりに聞いてはいると思うんだけど、俺が分かっていることをちゃんと話す。つまり、今ルッタがどうしているかは分からないってことを二人とも、理解はしてくれただろう。そして、人選の意味も。
ま、それはそれとして。せっかく来てくれたんだ、聞くだけ聞いてみるか
「シーラ、お前スティ運べるか」
「エンデバルまででございますか? バングデスタ様の体調もございますので、途中休憩を挟むことになりますが大丈夫です」
おー、運べるんだ。スティ、結構図体でかいけどな。よし、それなら。
「俺も連れて行けるか?」
「は?」
「龍人のお年寄りが、地下砦にいるんだってさ。俺が戻ってきたこと、喜んでくれてるらしいんだけど……年取ってるから、地下から出られないらしい」
ここぞとばかりに、事情を畳み掛ける。さすがにこいつらも、そういう事情で俺を連れて行くのを断れない……と思うんだけど。いや、俺一番の偉いさんなんだから命令すりゃいいんだけどさ、そういうわけにも行かないよな。
「だから、会ってやりたい。ルシーラット、行けるか」
とどめはちょっと声を落として、わざとちゃんとした名前で呼んでやる。
シーラはほんの少しだけ考えて、小さくため息を付いて、それから答えてくれた。
「今のコータ様であれば、可能です。上空は寒いですから、バングデスタ様に抱っこして頂く形になりますが」
「俺がコータ様を温めるのか?」
「はい。自分はお二人をお連れするので筋肉を使いますから、身体は温まりますので大丈夫です」
ああ、空の上寒いっていうもんなあ。しかし、暖房代わりにスティに抱っこされるのか。……いや、全力で虎姉ちゃんもふもふを堪能できるんならいいけどさ。遠慮なくしがみつけるし。
と、スティが何かを思いついたようだ。
「ルシーラット。山の中で降りてくれれば、俺が距離を多少は稼げるぞ」
「その時はシーラと一緒にスティの背中に乗るか。よし」
「へっ?」
スティの申し出は、多分シーラにはありがたいはずだ。なんで俺もその話に乗る。
で、シーラは何でぽかんとしてるんだ。いや、せっかくなんだから四天王の背中に乗ろうぜ。こんな機会、俺でもなきゃなかなかないだろうしさ。
「配下にばかり働かせるわけにも行くまい。俺の背なら、少しは休めよう。その分、時間も縮められるしな」
「あ、ありがとうございます」
「何、お前に売った恩はアルタイラから買い戻す。気にするな」
はっはっは、と笑うスティはほんとに漢だ。虎姉ちゃんだけど、一人称俺だしいいよな。
まあ、ルッタがピンチだったら助けてやって更に恩を売る、とかなりそうだけどな。俺としては、配下が仲良くやってくれるのが一番いいよ。
「……くれぐれも、お気をつけくださいませね」
……じーっと話を聞いてたファルンが、頭を抱えている。そういえばいたっけ、ごめんごめん。
というか悪いな、少し城を留守にするぞ。




