274.種族が違うと違うよね
「それから」とスティが声を上げた。この辺りは獣人が多いっぽいから、獣王バングデスタである彼女の出番は多いようだ。
「燕の一族に依頼し、コータ様のことは伏せた上で俺の名義を使い、この近辺の獣人集落に手紙を出しました。熊獣人、及び豚獣人たちの集落とは連絡が取れております」
「へえ」
熊と、豚?
……ああ、もしかしてゲームとかでいうオークのことか。ちゃんと獣人として集落形成してるんだな。
なら、俺が何か言うこともないだろ。まさか女の子に無差別にちょっかい出してるとかそれ以上のこととか、やってなけりゃな。
「いずれも力自慢の種族ですので、そちらの協力を取り付けることができれば力仕事ははかどりましょう」
「ああ、それは助かるな。おおかた、人間よりも強いんだろ?」
「はい」
だよねー。
スティはつまり、北方城の設備を改良するのにそいつらの力を借りられたら楽だよねって言いたいわけだ。
もちろんその後のことも考えてだろうけれど……あ。
「……力を貸してもらうんだから、俺が行ったほうが良いか?」
「いえ、その二種族に関しては、向こうから使いをよこすと申しております」
そういった答えと共に、カーライルが手紙を渡してくれた。フレイナとその仲間たちが、当の種族から受け取ってきてくれたようだ。
時代劇でよく見る手紙みたいに、紙一枚で包まれた中の便箋を開いて見てみる。確かにカーライルの報告どおり、まずは使者を送るのでそちらと話をしてほしいということが記されていた。
いきなり攻めたり攻められたり、なんてことにはなりたくないのでこれはありがたい。
「分かった。来たら入れてやってくれ」
「大丈夫なのですか?」
使者と喧嘩になったら洒落にならないもんな。だからそう指示を出すと、カーライルは少し怪訝な顔をする。
あんまり危機意識がないんだろうな、俺に。だけど、その理由である二人に問うてみれば分かるだろ。
「ルッタ、スティ。負けると思う?」
「いえ全然」
「猪や家畜の豚は食べたことがありますが、獣人はまだですね」
「食べないように」
「は、失礼いたしました」
思わずツッコミを入れると、スティは素直に頭を下げる。もし食った経験があっても今後は食うな、って言うつもりだったけどないのか。よかった。
というか、食おうとしてたってことはルッタと同じく、負けるつもりは全くないってことなんだよな。さすが四天王。
……まあそれはともかく、だ。今このメンバーの中で一番偉いのは俺で、だから規律を作るのも俺の自由。まあそのうち、カーライルとかに丸投げすることになるだろうけれど、今のところは。
だから。
「昔はどうだったのか、俺は忘れてしまってて思い出せない。だから今の俺の考えで言うけれど、食うのは野生の動物や家畜にとどめてほしい。少なくとも獣人とか鳥人、魚人や人間といわれる存在はやめてくれ」
「コータ様がそうおっしゃるのであれば、俺は従います」
「私も同じく、コータ様のおっしゃることには従います」
スティとルッタには、しっかりそう指示をした。この二人に命じておけば獣人と鳥人は従ってくれるだろうから……あ、レイダにも同じ内容で手紙出しとこ。海の方だとシャチとかサメとかいるだろうし。
「……混血児もだめですよね?」
「もちろん」
スティ、そこは確認しなくてもって思ったんだけど、確認しなけりゃどっちでもないからOKとか言い出しそうだしなあ。ちゃんと答えてやる。
……混血児、か。
ガゼルさん、元気にやってるかな。




