270.危険回避にこの手段
「ということは」
俺の信者であればあるほど、俺がアルニムア・マーダだってことはすぐに分かる。何というかものすごく便利、じゃねえご都合主義ではあるけれどそれはつまり、だ。
「そっちのゾミルか……彼女は、俺の配下としてはまだまだというところだな」
「我が後継者ながら情けないことでございます」
ゼルミーシャはともかく、娘であるゾミルは俺の信者としてはレベルが低い、ということか。何か言い方がおかしい気もするけれど、俺にしてみれば一番しっくり来る言い方だしなあ。
「いやまあ、そこら辺は個人的な好みもあるし。ただ、お前さんには悪いが放っておくわけにもいかないか」
「ひっ」
で、そんな事を言いながらちらりと彼女に視線を向けてみると、ビクリと震えられた。うんうん、これでこそ邪神だよな……って、違うだろ。
「如何様にも。ただ、これでもわしにとっては可愛い娘ですでな」
「殺さないから」
「ありがとうございます」
そこでお礼言われても困るよ、族長さん。確かに殺すつもりは全くもってないけれど……まあ、俺の両隣にいるシーラとミンミカは既に分かっているようだけどな。
でも、娘を殺さないってこととあと俺がちゃんと神様だって分かってくれたことで。
「わしら狼族一同、これよりコータ様の手足となり目鼻となって働くことを族長ゼルミーシャ、その名に誓いましょうぞ」
「こちらこそ、ありがとう」
狼獣人、少なくともゼルミーシャの一派は俺の配下となることを、深く深く頭を下げて了承してくれた。
さて、その後。
「あ、あの……」
「うん、だからそう怯えなくても大丈夫だって。殺さないし」
いつもは客人を泊めているという小屋の一つに、俺とゾミルは二人っきりでいる。ま、外にはシーラもミンミカも、そしてスティも見張りで立っててくれてるんだけどね。
別に覗いてもいいんだけど、それで女の子はともかく男がうっかり押し込んできたりでもしたら大変だし。一応俺、外見上ロリっ子獣人だからね。
「は、はい……そうすると、ワタシはどうなるのでしょうか」
「まあ、軽く下僕になってもらうだけだ」
「下僕、でございますか」
で、俺は彼女に自分がどうなるかの説明を簡単にした。ぶっちゃけると、このままだとマール教側に籠絡されたり教主がひゃっほいしたりする可能性もあるから、その前に俺が吸って吹き込んでしまえとそういうことである。
母親であるゼルミーシャにも一応そのへんは話しして、許可取っておいた。保護者の許可もらうのは初めてだな、そういえば。
「自意識とか思考能力とかはそのままみたいだから、それは安心してくれ。それと、普通は本人にこういうこと言わないからな」
「はあ……」
ぱったん。
俺の説明に、ゾミルは不満の気持ちを込めてなのか、一回だけ尻尾を強く振った。それで床を叩いた音が、少しだけ間抜けに聞こえる。
でもまあ、族長がOK出したからにはお前さんに拒否権って無いようなもんだけどさ。
「では、いただきます」
「んっ」
というわけで俺は、狼少女の大きな口をこちらから噛み付くように吸い付いた。うん、野性味あふれるスパイシーな感じだな。




