267.森にいるのは狼さん
えー。
俺は今、空を飛んでいる。もちろん自力ではなく、シーラに抱っこしてもらって、だけど。
いや、普通なら背中に乗って上から眼下の景色眺めてうわあ、とかなりそうなもんなんだが。
「おんぶじゃないんだな」
「翼が背中にあるんですから、人を背負うと動かしにくいんです」
「失礼しました」
そりゃそうだ。でっかいペガサスとかならともかく、シーラやルッタは普通に人間と同じサイズだもんな。背中だって同じサイズなわけだ、確かにおんぶだとちと無理がある。ごめんなさいと思いつつぎゅうとシーラにしがみつけるのは役得なのでよしとする。
ちなみに俺たちの眼下、森の中をスティとミンミカが走っている。二人ともきっちり四足移動なんだけど、それだとめちゃくちゃ早いらしい。森だし、足元も二足移動より安定するんだろうな。
「コータ様!」
シーラが俺の名前を呼んで、森の外れにある一点を指さした。寒いせいかだんだん木々が低くなってきてるんだけど、その中に広場があって誰かがいる。俺よりシーラのほうが目はいいはずだから、目的地はあそこということだな。
「おう! シーラ、頼む」
「はい」
空中は完全にシーラ任せだから、しっかりつかまって後はよろしく頼んでもらう。スティとミンミカもスルッと到着して、着地するシーラを待っててくれた。そうして、もう二人。
見るからに、服着て直立した狼。片方は銀の毛皮の鋭い感じで、もう一人は黒っぽい毛皮でちょっと小柄。多分後ろに控えてるこの小さい方がお付きで、銀色のほうが偉いさんだと思う。勘だけど、それぞれの雰囲気から俺はそう読んだ。
「此度は、わざわざのお越しをありがとうございます。ワタシは狼獣人族の族長の娘で、ゾミルと申します」
推測どおり、銀色のほうがそう名乗ってくれた。族長の娘さんなら偉い方だよな、と思ってたらミンミカが「おおかみさんは、おんなのひとがぞくちょうになるですよ」と教えてくれる。おお、女系なのか。なるほど。
さて、こちらも名乗らないとな。
「現在はコータ、という名前を名乗っているが、かつてはアルニムア・マーダという名で呼ばれていた」
「……まことでございましょうか」
「さてな」
うん。ゾミルだっけ、お前さんたちが疑うのも無理ないね。どう考えても褐色肌角尻尾付きロリっ子だもんね、神様名乗ってる俺の外見。
ただ、こちらは事実を伝えて判断してもらうだけかな。ちょうどそこに、一人良い例がいるし。
「少なくとも海王ネレイデシア、翼王アルタイラ、そしてそこにいる獣王バングデスタは俺に仕えてくれているが」
「なるほど。であれば、高い地位のお方であることは事実ですね」
ゾミルはスティを見て、深く頷いた。一応、お前さんたちの上の立場、ってことになるからな。俺のもとについてくれたら、だけど。
「族長に目通りを願いたいが、大丈夫かな?」
「それはもちろん。族長より、失礼なくお連れするように命じられております。どうぞ、こちらへ」
「ありがとう」
まあ、それがもともと俺がここに来た理由だから、そこは問題ない。
俺はシーラとスティ、そしてミンミカを連れてゾミル、そのおつきと共にその場から更に奥へと向かった。
……狼獣人たち、結構奥地に住んでるんだな。生活とか、ちゃんと出来てるのかね。




