264.海の中からお手紙が
「あ、そうそう」
「ふぁっ」
退出しかけたフレイナの頭をぽんと軽く叩いてから、ルッタが胸元に手を突っ込んだ。鎧の中から出してきたのは、小さな紙の筒。
「ネレイデシアより、手紙を預かってまいりました。どうぞ」
「ありがとう」
するすると進み出たルッタの手から、それを受け取る。卒業証書とか入れる筒のちっこいやつで、ぽんとふたを開けると中から丸まった紙が出てきた。
ま、要するに伝書鳩というかそういう感じな。畳んで封筒に入れるより、丸めて筒に突っ込むのが獣人や鳥人では主流とか何とか。多分持ったりくわえたりするのが楽だから、だろうな。ていうか、退室寸前まで忘れられてたのかよ、タコ姉ちゃん。
「会えたんだ。元気だったか?」
「拠点のいくつかは場所を覚えておりましたので、見に行ったときにちょうど。文字通り、水を得た魚……蛸でした」
「めちゃくちゃ元気そうだな、そりゃ。ありがとう、休め」
「はっ」
手紙が最後の要件だろうし、後はフレイナ吸うくらいだけどそれはほんと後でもできるんで、出ていってもらう。鳥人つっても、飛んで飛んで飛びまくってたわけだろうし、疲れてると思うからな。
この世界、結構海広いのによく会えたなって思ったんだけど、ルッタも知ってる拠点で会ったわけか。そりゃそうだな、フレイナみたいな伝令頼まれてくれる一族いるんだから、そりゃ場所知ってるわ。
「さて。なんて言ってきたかな、レイダ」
とりあえず、くるっと癖のついた紙を広げて読んでみる。文字読めるのはほんとにありがたい、多分神様特権ってやつだろうな。
内容は……かいつまんで言うと、現在確認できた海上及び海中のマーダ教拠点は七つ。うち二つ、陸地から比較的近い島にあったものはマール教が出城として使っているらしい。
残る五つは陸地から距離が遠いものと、あと水中に一つあるのが今でもマーダ教系の魚人や水生獣人の拠点になっているとのこと。そこにレイダ、つまり海王ネレイデシアが復活してきたもんだからその五つは全て、ネレイデシアの支配下に入ったそうである。
「海の中は、かなりこっちが有利っぽいな」
「先の戦の後、海溝や陸から遠い所に逃げた者も多いと伝わっておりますわね」
ちょうど戻ってきたファルンを呼んで、話を聞いてもらう。俺たちの中で一般的なマール教に一番詳しいのは彼女なんで、あっち側の視点からの話も聞きたいし。
「そのせいで、マール教は魚人や水生獣人に対してはあまりいい印象がございません。一部の魚人族たちはマール教側に帰依して永らえておりますけれども、その扱いはかなり低いようですわ」
「よく反乱しねえよな……ま、俺が負けてるからな」
「はい」
ま、そうでもなきゃタコの足焼いてこれ見よがしに売ったりしねえか。美味かったけどな、アレ。
しっかし、そうするとその一部マール教に行ってる魚人たちから情報、教主側に行っててもおかしくねえなあ。
そうなると、こちらとしても態度を決めておかないとだめかね。うん。
「ある程度配下をまとめてから、教主さんとこにお手紙でも出すか」
「お手紙ですか?」
「うん」
ファルンが不思議そうに首を傾げてくる。まあ、マーダ教さんからお手紙着いた、マール教さんたら読まずに食べたなんてことにはならないと思うけど。
「復活したけどこっちからは喧嘩売らない、売ってくるなら買うけどなって」
「それ、全力でかかって来ませんかしら」
「来るかなあ」
まあ、俺が復活してるってことは分かってるだろうから、全力で探しには来そうだけど。
その前にもうちょっと世界回って、配下集めとくかなあ。




