262.北のお城で会議する
「にしても」
なんとなく、それなりにちゃんと体裁が整ってきたなと部屋の中をくるっと見渡した俺の口から漏れたのは、全く別の話だった。
近くの街まで買い出しに出かけていたシーラが、何やら面倒なものを持って帰ってきた。それを合図に皆がぞろぞろと集まったので、なし崩しに会議みたいなことになっている。
ここまで情報が伝わってくるのは、徒歩だったりするとそんなには早くない。だけどシーラやルッタみたいな鳥人がいてくれるので、麓の街までひとっ飛びしてくれればそこに到着した情報は手に入る。
そして。
「バレたかー」
「そりゃ、さすがにバレるっしょ。アルタイラ様取り返しちゃったんすから」
ほら、とコングラが一枚の紙をぴらりと見せる。シーラが持って帰ってきたそれには、『指名手配・背教者』と記された文字の下にルッタの似顔絵が描かれていた。本物のほうが美人だけどな、うん。
何か、ルッタがこっちに来ちゃったことでマール教の教主がめちゃくちゃ怒ったのか何なのか。よく分からないけれど、全世界レベルでルッタの手配書が配られたらしい。
ま、これ見てルッタ本人見て、同一人物だと理解できるひとはどのくらいいるんだろうな。シーラはすぐに気がついて、慌てて帰ってきてくれたわけなんだけど。
「はは、一応マール教の幹部だったわけだしなあ」
「お恥ずかしい話でございます」
「……アルタイラさま、にがおえにてないですー」
すっごく恐縮しているルッタの横で、ミンミカがのほほんとそんなことをのたまう。うん、似てないよなー。ここにいる全員、うんうんと大きく頷いて同意しているよ。俺もだけど。
「しかし、アルタイラ様のことだけが知られているようですね」
「コータ様の今のお姿は、バレていないようですもの」
カーライル、そしてファルンが手配書を眺めながらそんな事を言う。そこに書いてあるのはルッタが背教者になったので、生死を問わず捕まえてきたら賞金出すよってことだけだ。他にここにいる誰かが手配されている、なんてことはなかったらしい。
特に俺なんて、実は邪神ですよーってバレた瞬間何されるか分かったもんじゃねえからな。まあ、そこらへんは助かったんだけど。
「ですが、どうやらマール教は勇者探しを始めたようです」
「探して見つかるもんなのか、それ」
シーラのそういう報告に、思わず突っ込んだのは俺じゃなくてスティだった。だよなあ、勇者募集してますって言って出てくるもんなのか、それは。
前回の戦のときどうだったんだろうなあ、と思ったんだけど……まあ、俺は知らないだろうな、と思う。全部、マール教側の話だし。
「ファルン、知ってる?」
「修行中に伺った昔話程度ですが……もともとそれなりの素質を持った者が名乗り出て、その後修行を経て実際に勇者となる例が多かったようです」
「修行の後に、いろいろあるんだろうな」
おいジランド、なんとなく言いたいことは分かるが言わなくていい。あと、いい年したおっさんが言ったらちとアレだぞ、うん。
今の教主、少なくとも外見上お前さんとどっこいのおっさんなんだそうだし。
「ということは、取り急ぎ他の拠点も調べておいたほうがよろしいでしょうか」
「うん。……ルッタは、自分の使ってた砦とかを確認に行ってほしい。他に知られないようにな」
「承知いたしました」
マール教が本格的に動き出す前に、こちらもそこそこ準備をしておかないとな。
だから俺は、ルッタにそう頼んだ。




