261.北のお城を掃除する
北方城。
邪神アルニムア・マーダ直属の配下である四天王の一人、獣王バングデスタが己の居城として使っていた山脈の中にある城。常時低気温である僻地に存在し、更に城へと通じる道が険しく常用には適していないとされ、現在では廃城と化している。
「というふうに、マール教には伝わっていたのですけれど」
僧侶としての勉強中にそう習ったというファルンが、少し広い室内をくるりと見回しながらそう言った。
ここはその北方城、その中でも謁見の間ってやつである。つまり、城主が部下やお客さんと会うための部屋だな。
天井、壁、床全てが石造りなのだけれど、扉は厚手の木製。また、床には厚手のじゅうたん、壁にもいくつかタペストリーが下がっていて、そのおかげかあまり冷えるという感じではない。
で、この部屋、一段高い場所があってその上に、石造りの玉座っていうやつか、椅子がでんと置いてある。本来は、バングデスタがそこにどっかり座って獣人の配下たちに指示を出していた場所なのだそうだ。
その椅子に今座っているのは、外見上ちんちくりんの獣人ロリっ子であるこの俺なんだけどね。
「ひとまず、これで最低限の体裁は整ったと思うのですが」
「住めればいいよ。断熱とかは今でもしっかりしてるみたいだし」
「は」
俺から見ると見下ろす場所にいるのはファルンとミンミカ、あとジランドとコングラ。
女性二人は大雑把に掃除してくれて、男二人は家具や荷物運び。動かせそうなものはがっつりとごつい木製なのがほとんどなので、ジランドたちなら慣れてるだろうな、と。
なお他の連中は、別の部屋を掃除したり整頓したりしてるらしい。俺も手伝おうか、って言ったんだけど全員声揃えて反対された。
『コータ様は我らが主ですから、働く必要はまったくもってありません!』
だってさ。あとアムレクがこそっと、「コータちゃま、にもつはこぶのとかきっとたいへんです」と言ってきたのが多分本音だな、こいつら。
まあ確かに、このちっこいサイズではあんまり手伝いにはならないか、という考えに及んだのでおとなしく見てることにした。一応、言っておくべきことだけは言っておいたけどな。
「あ、人間は多分獣人や鳥人より寒いの弱いから暖かくしてやってな。何しろ自前の毛皮も羽もないから」
「言われてみればそうですね。承知いたしました」
「自分たちも寒さには強い体質ですので、あまり気にしておりませんでした。気をつけます」
スティとシーラが、速攻で頷いてくれたのは助かった。ルッタも、「寝具などの在庫を確認しておきます」と申し出てくれたし。
いや、ジランドやコングラは結構平気っぽかったんだよ。脂肪あんまりついてないから大丈夫かな、と思ったんだけど。
ただ、ファルンやカーライルが結構寒がっててな。俺は何でか平気なんだが、これは神様だからかなーとか思っている。
ちなみに、寒いの苦手とかが分かったのは、ここに来る道すがら。
道というか山というか空というか。
「あああアルタイラ様っひ、ひえますうっ!」
「もう少しだ、耐えろ」
「カーライルさん、だいじょぶですかー?」
アルタイラが両脇に抱えて飛んでいったうち、ミンミカは全く平気だったんだけどカーライルがもう、顔固まってたし。
「……ファルン、大丈夫か?」
「………………」
「シーラ。ファルンめちゃくちゃ寒そうだから急いで」
「承知しました」
ファルンてば、俺が寒いといけないからってしっかり抱きしめてくれたのは俺としても約得だったんだけど、その自分が凍えてちゃだめだよなあ。
「いや、さすがにちと寒かったっすね。親方」
「お前、バングデスタ様の毛皮にお世話になってんだから文句言うんじゃねえよ」
「俺の毛皮だと、背中はあんまりぬくくないだろう」
「ぼくがうえにのっかってもよかったんですけど?」
……ジランドとコングラ乗せて山の上突っ走ったバングデスタもすごいけど、ソレに並走できたアムレクも結構すごいな、とは思った。さすがウサギ。




