025.お店を出たらぶらぶらと
「ごちそうさまでした。おいしかったです」
「まあまあ、ありがとうございました。またお越しくださいませ」
飯食い終わってちゃんと支払いをして、そのまま外に出る。一応ロリっ子スタイルなので、無邪気にお礼を言ったら喜ばれた。あんまり気にしてなかったんだけど、店員さんには獣人系が多かったみたいなんで、それもあるのかな。
そこら辺はともかく、人様に喜ばれるのは悪くないな、うん。しばらくこの町にいるなら、この店に通ってもいいと思えるくらい美味しかったし。
「シーラ殿、ありがとうございました。あの店は確かに良いところでしたよ」
「方々のお口に合って、何よりだ」
「また行きましょうねー」
連れ三人も同じ意見、というかシーラが紹介者だもんな。よし、また行けそうだ。
そこからぶらぶらと町中を見物していると、獣人鳥人がちらほら見受けられる。ナーリアだと獣人は俺だけ、鳥人はシーラだけだったから、それぞれ違うんだよなあ。
獣人っつっても耳が尖ってて尻尾がちらっと見えるレベルなのでよく見ないと気づかないタイプから、大きな猫が二本足で立って歩いてるレベルまでさまざまだ。鳥人だってシーラみたいな背中に羽生えてるだけのから、手配書のやつみたく顔も鳥だぞ、なやつまで。
種族によっても統一感ねえけど、それはそれでいいか。人間でも髪の色とか肌の色とか、違うもんなあ。
「さまざまな種族がいるんですね」
「気になりますか? コータちゃん」
ふっと口にしてみたら、即座にカーライルが反応した。多分、周りをキョロキョロ見回してたからだろうな。
否定する理由もないので「うん」と頷いてみせると、彼は小さく肩をすくめて言葉を続ける。外見上はすっかりお父さん、だな。
「住む地域の気候や他の種族との交流の多さで、同じ種族の中でも結構変化があるようです。龍人族は封印されたとも言われているくらい交流がないので、今でも元の姿を保っているとは思いますが」
「そういえばわたくしどもでも、龍人族の方にはついぞお会いしたことがないですわね。一部、奥地に住まわれていると伺ったことはあるのですが」
「自分の生まれた村でも、彼らを見た者は長老くらいだと言っていました」
ほうほうほう。
シーラの村の長老は見たことあるんだ、龍人族。元の姿保ってるってことはやっぱりリザードマンだかトカゲだか、な姿してるんだろうなあ。もしくは七つの珠集めたら出てくるあんな感じとか。
そういや、俺の配下に龍王……えーとクァルードだっけ、いるはずなんだよな。どんなカッコしてるんだろう。
もうすぐ宿、ってところまできて、ふと視界の端を何かがよぎった。視線だけそちらに向けると、多分人影だ。路地の奥でこそこそしてるっぽい。何か、気になる。
「コータちゃん?」
「何かいた。あの路地の奥」
ファルンに小声で、何かが見えた路地を示す。シーラとカーライルもそちらに視線を巡らせて、それから全員でするりと入り込んだ。
観光地ではない、ということもあってか路地裏は結構ゴミゴミとした感じで、生活感というか……うーん、生ゴミの匂いがな、ぷんと漂ってくる。
「こちらですか」
「うん」
俺はカーライルのそばにいて、ファルンとシーラが路地のあちこちを探っている。
ここにあるのは、壊れた荷車とか、木箱とか。いろんなものが転がってて、身体の小さい俺なら隠れられるような隙間もいっぱいある。
「いた」
「がっ!」
無造作に、シーラが荷車の向こうに手を突っ込んだ。
そこから聞こえてきたのはおっさんの声で、彼女の片腕で引きずり出されたのもおっさんだった。シーラが掴んだのはその右手首で、どうやら短剣を突き出してきたところをむんずと捕まえたっぽい。
……鼻筋と右の頬に傷跡。あの似顔絵、特徴だけ見ればすごく分かりやすかった。マジか。
「て、てめえマール教の手先か」
「ということは、お前はマーダ教の手先だな」
おっさん、そういう言い方するって自爆だぞ。もっとも、マール教の僧侶であるファルンがいるんだからそう考えるのはごく自然だけどさ。
いや、まさかお前さんの信じてる神様がここにいますよー、なんて言っても信じないだろうけど。
「エンデバルから手配書が回ってきている、マーダ教の残党に間違いありませんわ。シーラ」
「ああ。顔に傷などつけて、見つけてくれと言っているようなものだからな」
ファルンは楽しそうに、シーラはつまらなそうにそんな事を言う。お前さんたちと立場は近いはずなんだけど、えらく冷たいなあ、二人とも。
とはいえ。
「……あれは、コータ様の配下には値しませんね」
ひそ、とカーライルが囁いてくる。ああうん、俺もそう思う。
あいにく今の俺は、無理やり精気を吸うことはあっても無理やり女の子の服剥ぐことはしねえからな。
だから安心しろ、荷車の向こうで身体を震わせてる、スレンダーなお姉ちゃんよ。




