254.お前らほんとに大丈夫か
「ん、んんん、んふう……」
いきなり全力で吹き込んだらそれはそれで何かえらいことになりそうだったので、普段他のやつを操るくらいのレベルで吹き込んでみる。
ある程度吹き込んでからそっと顔を離すと、ルッタはすうすうとスムーズに呼吸していた。寝息とも言う。
「どうかな」
「ひとまず、落ち着いたようです」
独り言のつもりでぼそっと言ったんだけど、すぐそばにスティがいるんだよね。ちゃんと答えてくれた。うん、スティから見ても落ち着いてるのなら、多分大丈夫だろうな。
いや、大丈夫なのはルッタだけだ。今、俺とルッタとスティは崖の途中、それなりに丈夫な木に引っかかっているおかげで一番下まで落ちてないわけである。大丈夫、と胸を張って言えるのは少なくとも、この崖の上にいるカーライルたちの所に戻ってからだ。
戻る。どうやってだよ、おい。一人爆睡中だぞ。
「……バングデスタ、この崖登れるか?」
「一人でならば」
もしかして、と思ってスティに聞いてみたけれど、この答えってことは人を担いで登るのは難しいってことだよな。
俺、シーラ、スティ、ルッタで四人。シーラに俺とルッタ担いでもらって、もしくは二往復も考えたけど手間だよなあ。
そうなるとだ。
「ルッタ叩き起こして、シーラと二人で飛んでもらったほうが早い?」
「正直に申し上げれば」
ま、そうだよなあ。鳥人が二人いるんだから、二人で飛んでもらえばいい。ルッタも俺の精気である程度は回復してるだろうから、上まで戻れりゃ後は何とかなる、はずだ。
「アルタイラ様、大丈夫でしょうか……」
「大丈夫じゃなかったらもういっぺん寝かせて、悪いけどシーラに往復してもらうことになるな」
「……承知しました」
ぱたぱた飛んでるシーラに、一応確認をとっておこう。俺はまだちっこい身体だからいいけれど、ルッタは違うからな。
さ、まず起こすか。頬を何度か、軽く叩く。何度めかで、反応があった。
「…………ん」
「起きたかー」
「……ふぁい……」
うにゃうにゃ、とまるで普通の寝起きみたいにルッタは目を覚ました。寝惚け顔でまぶたを何度かこすり、そのままきょろきょろと俺たちの顔を見渡す。
その中で、彼女が視線を止めたのがスティを見たとき。まあ、インパクトある顔だしな。声共々可愛いけど。
「アルタイラ、無事か?」
「……バングデスタ?」
「そうだ」
その可愛い声で名前を呼ばれて即反応できてるから、ちゃんと思い出したようだ。あーよかった、サブラナ・マールめざまあみろ。
グレーのもやの落とし前は、いずれきっちりつけてやるからな。
「アルタイラ様!」
「ルシーラット? あれ、私は……」
「良かったです……アルタイラ様……」
おう、シーラのことも理解できてる。よしよし、こらシーラ涙ぐむな、分かるけど。
……ところで、俺のことは分かるんだろうか。シーラもスティも分かってくれたから行けるかな、とは思うんだが。
「あ、アルニムア、マーダ、さま」
「おう、分かってくれたか」
あ、ひと目見て名前が速攻で出た。へえ、マジで分かるもんなんだな。何でマール教側のときは分からなかったんだ、って気になるんだけど……分かったらそれはそれで、俺めちゃくちゃピンチになるよね、うん。
などと考えていたらルッタは、スティの腹の上でジタバタともがいていた。いや、何やってるんだお前。
「たっ、たたた、大変に失礼をいたしました私はなんという愚かな所業をっ」
「あーいや、それはいいんだけど」
「今の状態では危ないから落ち着け、アルタイラ」
「おおお落ちますから! むやみに動かないでくださいませ!」
ああ、全部覚えてるんだなあと何となく遠い目になった。あと周囲見えてないし。
スティが首根っこ抑えてくれたのと、シーラが俺のこと慌てて抱え込んでくれたので助かったというか。
「ひとまず、崖の上に上がろうな? ここ、崖の途中の木の上だから」
「は、はいっただいま!」
というわけで、さっさと上に上がろうな。他の仲間達も待ってるし、さ。




