253.一体どれだけぶっこんだ
「んぐっ!? んふ、んんんんんっ」
「動くな。ここは崖の途中、危ないぞ」
「んふっ」
まあ、いきなりキスされたらもがくよな、ルッタ。もっとも、スティがしっかり固定してくれたから大丈夫っぽいけれど。
で、そのまま軽く吸ってみるとすぐに見つかった、白いもやの感触。そいつをしっかり歯で噛んで、そのまま外へ引きずり出す。
「んぐうううっ!」
「うわ!」
「ふへっ?」
「っ!」
自分の口から変なモン引きずり出されたルッタはともかく、スティや俺やシーラまで驚いたよ。
いやだって、本来これで出てくるのは白いもやなんだけど、今回は何かまだらにグレーに染まってる上に量がやたら多い。ぶっちゃけ、俺が包み込まれてもおかしくないレベル。
ルッタの中にどんだけ流し込みやがったマール教! とか叫んでる場合じゃねえ、このもや何とかしないと!
「……バングデスタ様!」
「ルシーラット、任せる!」
「はっ!」
と、俺がおたおたしてる間にシーラが剣を抜いた。俺の身体は……あ、首根っこスティに掴まれてるわ、俺のほうが猫みたいだ。
で、スティから任されたシーラは、必死に上に逃げようとするグレーのもやをあっさり追い抜いた。そうして、上から冷たい目で見下ろす。
「アルタイラ様に無礼を働いた罪、己の消滅で贖え」
そのまま急降下、ながーく伸びたもやを上から下まで縦に真っ二つ、に切り裂いた。
もやは一瞬だけその場に固まった後、上からザラザラという感じで消えていった。まるでなんか、砂がこぼれ落ちてくる感じ……なのを、シーラが翼を思いっきり羽ばたかせて消し飛ばす。
「失せろ、下衆が」
「どんだけ入ってたんだろ」
「……さあ」
思わずぼそっと呟いた俺に、スティは首をひねっただけ。まあ、お前さんもついさっきまで似たような立場だったもんなあ。分からないか、そりゃ。
それはともかく、これでルッタ大丈夫かな、と思ったんだけど。
「あが、ががが……」
「アルタイラ様!」
「アルタイラ!」
「え? あれ、おい!」
スティの腹の上で、ルッタは顔を青ざめさせて全身ビクビクと痙攣していた。いや、俺もや引っ張り出しただけで何もしてないぞ?
つか、何があった?
「コータ様、あなた様の精気を!」
「ん?」
その俺の疑問に答えたのは、やっぱりスティだった。
「先ほどのアレのせいで、アルタイラの体内の精気がかなり減少しておりましょう。体力も下がっていると思われますが、先ほどまで憑依していたサブラナ・マールの力も影響している可能性がございます」
「それで俺か。分かった」
あーあーあー、要は違う意味で死にかけてるわけな。んで、精気が足りてない以上吹き込む必要があるわけだ。
それができるのは当然、俺であるからして。
「んだこら、死ぬんじゃねえぞ? アルタイラ」
一度大きく息を吸い込んでから、俺は再び彼女の唇に食らいついた。今度は、俺の精気を吹き込むために。




