252.崖の下、ガチでいけ
落下の跡は、えぐれた地肌や木の枝の折れ方などですぐに分かる。シーラはある程度まで急降下すると速度を緩め、そうして崖の方を見ながらゆっくりと降りていった。
やがて、一段と太い木が折れもせずに残っている場所に到着。ここより下に、落下の跡はない。そうして、うまく枝に引っかかったというか四肢を突っ張って自分の身体を引っ掛けたスティを発見できた。それと、その腹の上でぐったりしているルッタも。
「スティ! ルッタ!」
「お二方とも! ご無事ですか!」
即座に近づいてくれたシーラと一緒に、声を掛ける。ほんの少しだけ間があって、スティがこちらに目を向けた。日の出から少し時間が経ってるから、結構明るくなっているのは助かるな。
「俺は無事だ。こいつも、多分」
「がふ……」
「あ、これは先ほどの殴り合いの結果なので」
軽く吐血してるルッタについて、スティはしれっとそう報告してきた。いや、それで終わるレベルの殴り合いじゃなかったと俺は思うんだが、まあ二人とも俺の四天王だしなあ。
「それより、コータ様」
よいしょ、という感じで上半身を起こしながら、スティが俺を呼んだ。「何だ?」と答えると、彼女はルッタの首根っこを掴んで引き上げる。
「血を吐いて口が汚れているのですが、今を置いて機はないかと」
「……ああ」
要するに、この状況でルッタを吸え、と。つかお前らここから落ちないか、大丈夫か?
ちょっと心配になったところで、ルッタが軽くうめいた。どうやら、意識が戻ったらしい。
「きさま、なに、を」
「うるさい、おとなしくしていろ」
意識は戻ったとはいえ、まだうまく動けない状態っぽいな。それなら今のうちに吸ってしまって、自力で上に戻れる状況にしたほうがいいかもしれない。
「シーラ、頼む」
「承知しました」
幸い、シーラも俺の考えは分かってくれたようでするっと接近してくれた。崖ぎりぎりだけど、今のところ風とかは大丈夫な様子。
ひとまず急ごう。せっかく、久しぶりの新味だし。
「落ちないか?」
「しっかり根を張っているようですし、コータ様は小柄でいらっしゃいますから」
「おう、それもそうか」
ロリっ子万歳。こういうときはちっこい身体が全力で役に立つな、と思いながら俺は、シーラの腕からスティたちの乗っている太い木の枝へとゆっくり移った。……落っこちてもシーラ、頑張って拾ってくれよ。
「俺が支えておりますので、ご安心を」
「おまえら……いったい、なに」
「では、いただきます」
ルッタのうわ言もどきは無視をして、スティの何か安心する一言に頼ろう。まずは『マール教の手先であるルッタ』からあのもやを引きずり出して、『俺の配下であるアルタイラ』に戻すのが先決だもんな。
「んっ?」
だから俺は、遠慮なくルッタの唇に噛み付くように吸いついた。




