248.結局こいつとやるしかない
「……アルタイラ?」
振り返って声の主をひと目見て、スティはあっさり看破した。多分、ここにいるメンバーの中でその正体を分かってないのは剣抜いてこちらをぎらぎら睨みつけている本人、だけだろう。
「ルシーラット一人だけだと思っていたが、そのような幼子まで毒牙に掛けていたとはな。さすが、邪神の下僕どもだ」
「コータ様。よもや、お困りのこととは」
「正解」
この場合彼女、つまりルッタの発言は全員聞き流すのが吉である。何しろ、サブラナ・マールに言わされてるようなもんだし。後で正気に戻ったら、思いっきりジャンピング土下座されかねんなあ。
ひとまず、スティも空気を読んでひそひそ声で聞いてくれたので端的に答える。後は頼んだぞ、配下たち。
「大変に、困ったことです。……分かりやすくマール教の手先になっておられて」
「正気に戻すには先ほどのようにすればよろしいのですけれど、何しろああですので」
しれっと答えてくれたのは、シーラとファルン。……まあ、俺が当の邪神であることにはさっぱり気づいてないみたいだし、その他の誰が黒幕だと考えててもあんまり状況変わらないよな。
「とっ捕まえてガッチリ拘束してからでないと、正気に戻せなさそうで大変っすわ」
「なるほど。アルタイラともなれば、ルシーラットでは手に余りますな」
コングラの脳天気な解説に、スティはニヤリと笑う。虎が笑うと、口の端から鋭い牙が見えてなかなかの迫力だな、おい。
そうして手に余る、と言われたシーラは軽く恐縮した。この状態で剣に手をかけっぱなしなのはさすがだけどな。
「力不足を痛感いたします」
「構わない。四天王たるもの、配下に負けるような無様な腕ではないからな」
「は」
何気に、四天王めっちゃ強い発言。そりゃまあ、めっちゃ強くなけりゃ四天王、なんて呼び方しないよね。レイダも大概強かったけど、彼女の本領は海の中だろうし。
……残る一人、龍王クァルードってどんなふうに強いんだろうな。
「貴様ら、全員まとめて神都サブラナに送りつけてくれる。そこで我らが教主様の教えを受け、忠実なるマール教の使徒となるがいい」
さりげに、ルッタの演説は続いてたらしい。って、え、全員なの?
コングラとジランドが、すっごく困った顔になって答えた。
「……俺、女の子が好きなんすけど」
「俺も女が好きだな。何度か男に告白されたことはあるが」
「そういう意味じゃない!」
「マールきょうのきょうしゅさまがおしえてくれることって、こうびですよね?」
「はしたない言い方をするな!」
うんアムレク、確かに言い方ははしたないが多分そのとおりだと思うぞ。というか教主、どっちもOKなのかよもしかして。
まあ、人の趣味をとやかくいうつもりはない。俺だって外見ロリっ子だけど、吸うのは女の子と決めているわけで。
ああもう、話がややこしくなる前にとっとと何とかしてくれ。
「殺さないで生け捕り、ですね」
「ああ。大変だろうが、頼む」
「承知」
というわけで、さっきからとってもやる気になっているスティに後は任せることにする。
ただ、スティのやる気がかなり本気になっているのが気にかかるけど。
「もっとも、正面切って戦ってみたかった相手ではございますので少々、周囲にご迷惑をおかけするやもしれません」
「ほどほどにしてください。こちらは皆、戦闘力はあなたより低いんです」
あ、やっぱり、と思ったらカーライルがしれっと返してのけた。一瞬だけスティはえ、と目を丸くして、それから鼻の下の丸い部分、あそこ何ていうんだろうな、そこを膨らませて答える。
「分かった。任せおけ」




