247.意外にさっさと来やがった
「とりあえず」
うむ、目の前ででかい猫がおとなしくしている。これは我慢せずにもふれ、という神のお告げに違いない。いや、神って俺だけど。
まあひとまず、バングデスタをなでなでもふもふしながら話を進めよう。
「お前が今までの事情をどれだけ知ってるか、なんだけど……場所的に無理か」
「はい、あまり詳しくはございません。ここは山の中ですゆえ、都や遠くの話などはなかなかやって来ませんので」
「そうだよなあ」
前の世界みたいにインターネットとかあれば、そうでなくても電話とかあれば情報なんてあっという間に飛んでくるんだが。
この世界だと、一番早いのは人間もしくは鳥人あたりが飛んできて口でいうなり手紙なりだもんな。
「……あのー、アルニムア・マーダ様」
「あ、コータでいいぞ。今の名前だ」
「は、はい、コータ様」
一応、バングデスタにも名前は訂正しておこう。さすがにこの世界、堂々と邪神の名前名乗って通れる世界じゃないからな。
で、何で困ってるんだ、お前。
「何で俺はもふられてるんですか」
「俺がもふりたかったから」
「はあ」
ごめん、いきなりもふもふしまくったのはさすがに驚かせたか。あとシーラ、ミンミカ、アムレク、ついでにカーライル、お前ら羨ましそうな顔をするな。特にカーライル、お前はどこをもふればいいんだ。
あと、バングデスタ……長いからスティでいいか、にしてみれば俺は仕えるべき神様なので、何でという疑問を口にするのだって頑張ったんだろうな。ごめん。
ひとまず離れると、カーライルが「コータ様」と口を挟んできた。うわ、ちょっぴり怒った口調かも。後で機嫌取ろう、うん。
「そうでなくとも、我々の事情についてはほとんど外には漏れていないはずですが」
「それもそっか」
「おそとにばれたら、たいへんですもんねー」
ミンミカ、のんきに言ってくれてありがとう。まあ、ざっと説明するか。どうせ、大したことじゃないし……俺がろくに昔のこと、覚えてないところ以外は。
「俺を復活させてくれたのは、ここにいるカーライルだ。前の戦のときに俺は魂をほとんど吹き飛ばされたらしくて、正直この世界についての記憶はまるっとない」
「なんと」
「そんなわけで、今俺は配下を探してる旅の途中、みたいなもんだ。同行はしていないが、海王ネレイデシアも既に復活している」
そこまで言うと、スティの視線は……まあ当然というか、ファルンに固定される。のほほんとしたままの彼女が何でここにいるのかも、ちゃんと説明しないとな。
「ファルンは俺の下僕にしてあるから、心配しなくていい。今の世界、マール教の僧侶がいるといないとじゃ便利さが違う」
「確かに、その通りですね……」
あれ、耳がぺたんとなった。微妙にへこんでるのかな、スティ。いやほんと、ファルンがいてくれたおかげで俺たち、ここまで結構スムーズに旅できてたんだしさ。
さて、一つ彼女には頼みがあるわけだ。それもお願いしないとな。
「んで、今ちょっと困ったことがあるんだ。バングデスタ、できればお前の力を借りたい」
「何なりと」
何を、とも聞かず当然のように頭を垂れたスティと、そうして俺たちの声にあんまり聞きたくない声が、聞こえてきた。
「見つけたぞ、マーダ教」




