244.夜明け前は眠いもの
「……タちゃん、コータちゃん」
遠くから、俺を呼ぶ声がする。ああ、何とベタな夢からの目覚めだろう……しかし、微妙に寒いなおい。
「んぁ?」
まあ、目覚めっていうのは自覚があるので起きることにする。……あれ、何か暖かいというか抱えられてるというか、うん。
「既に到着しておりますよ。もうすぐ夜明けです」
「え、マジ」
すぐそばでシーラの声がして、やっとこさ意識を現実に引っ張り出すことができた。ああ、抱えられてるのはマジか、俺シーラに抱っこされてるわ。
って、なんで俺はシーラに抱っこされて寝てるわけだ、と考えたのは一瞬。すぐわかった。
夜明け前、まだ真っ暗なうちに起こされて宿を出発して。で、牛車に乗ってしばらくするとあのがたごとという振動が大変に眠気を催して、以下省略。
「牛車の中で爆睡してそのまま、よくお休みでした」
「うわあ」
そしてシーラの証言が思いっきりそのまんまで、俺は思わず顔を隠すために彼女に抱きついた。よし外見ロリっ子特権、と思っておこう。
「コータちゃん、大丈夫ですか?」
「さすがに、ちょっときびしかったですかー」
「あさ、めちゃくちゃはやいもんね」
カーライル、ミンミカ、アムレクの声が飛んでくる。あうあうあう、全力で爆睡してたところを抱っこされてそのまま牛車降ろされて運ばれてるなんてこっ恥ずかしいぞー。
つか、運ばれてるってことはここ、もしかしてご来光スポットだったりするのかね。そう思って顔上げて軽く周囲を見回してみると、やっぱり人が多かった。はっはっは、マジかー。
「ご、ごめんなさい」
「謝ることはないでしょう。まだ小さいんですから、眠くて当然です」
「運ぶのも手間かからないっすしね」
「コータちゃんを抱っこできて、自分は光栄です」
ジランド、コングラ、そしてシーラ。お前ら甘すぎだからな、と甘やかされてる本人が言うのもアレなんだけどさ。
特にシーラ、周囲が暗いのを良いことに全力で頬が緩んでいるの、分かってるからな。
「ははは……ありがとうございます、みんな」
「はいっ」
ま、悪気はないし俺は甘やかされてしかるべき立場なのでいいことにしよう。これでも邪神だし、と自分に言い聞かせながらお礼を言ってみた。
「もうすぐ夜明けですわよ」
ファルンも当然、一緒にいるんだよね。その彼女が声を上げたくらいで、うっすらと明るくなってくる。ここの場合戦士クルンガがぶっこ抜いた山の穴の向こう側から日が昇ってくるわけだけど、一応その前に朝焼けというかそんな感じで明るくはなるようだ。
ご来光を待ちかねていた、周囲の観光客がざわざわと盛り上がる。俺も何となくだけど、日の出を待って気分が盛り上がる感じになってさ。
「このまま待ちましょう、コータちゃん」
シーラが抱えたままでいてくれるようなので、俺はうんと頷いた。いや、下に降ろされたら多分背丈のせいで見えないだろうしさ。




