241.かわいい声は君かいな
「おい」
「っ」
いきなり、カーライルの動きが停止した。というか、軽く後ろに引かれた感じ。腕掴まれて引っ張られた、というのが一番正しいようだ。
カーライルが振り返る……のは俺が邪魔だから俺のほうが振り返ると、その原因は大柄な獣人さんだった。身体が全体的にガッシリとしていて、ミンミカたちよりも顔が獣寄りである。具体的に言うと虎だな、こりゃ。ただし黄色と黒じゃなくて、灰色と黒。
けど、今のおいって声めちゃくちゃかわいかったんだけど……別人か?
「そこ、あまり前に出すぎると滑るぞ」
「おっと」
あ、獣人さん本人だった。アニメ声、とまでは行かないけれど高めの声……って、この虎、女の子か。子、という年齢かどうかはさておいて。
それはともかく、獣人さんの指摘に後ずさりしながらカーライルは冷や汗をかいてる。そりゃまあ、俺を肩車してるんだからな。うっかり落っこちたらえらいことだし。
「ココらへん、大人でも危ねえけどガキには余計危ねえぞ。目を離すなよ」
にい、と笑う顔は大きな猫なんだけど、口元の牙が怖いです姐さん。いや違うか。
カーライルはその牙の迫力には負けないらしく、普段どおりに笑ってみせた。
「ありがとうございます。もちろん、気をつけておりますよ」
「なら良いんだけどよ。ゆっくり見ていきな」
虎獣人さんは満足したのか、軽く手を振ってその場を離れていった。あ、尻尾も長くて太い。ぱたん、と振られたアレでびしっと殴られたらきっと痛いだろうな。
「……あれ、女の子だね」
「そうですね」
ひとまずそのことだけカーライルと確認していると、シーラたちが恐る恐る接近してきた。何、思わず距離取ってたのかお前ら、と思って周囲見ると妙にこの辺だけ、人口密度が薄い。虎姉ちゃんの迫力故か。
「コータちゃん、大丈夫でしたか?」
「私もカーライルお兄ちゃんも大丈夫です。さっきのお姉ちゃんが、危ないって言ってくれましたから」
「あら、女性でしたの?」
「声がね、とても可愛らしかったんです」
ファルンが分からなかったところを見ると、声聞こえてなかったみたいだな。確かにあまり大声ではなかったけどさ。
振り返ってみるけれど、もう虎姉ちゃんの姿は見えなくなっていた。ただ、何となく人が薄い場所があるから、峠を降りて行ったのかなってのは分かる、ような気がする。
「とらの、おねえちゃんですか」
「うん」
「とら、かあ」
「虎、ですか」
おや。
ミンミカとアムレクが、考え込むような顔になる。シーラも視線が空に行ってる感じで……これは、何か心当たりがあるってか。
「……あのう、コータちゃん」
「はい?」
やがて、声を上げたのはシーラだった。俺たちのそばに寄ってきて、ひそひそ声で答えをくれる。
どうやら、あたりといえばあたりだったらしい。
「バングデスタ様は、確か虎でした」




