237.ここからは自分の足で
しばらくがたごとと進んでいた牛車の動きが、急にスムーズになった。道が綺麗になったんだろうかと思う暇もなく、牛車はスーッと止まる。やっぱり、綺麗に整地されてる場所だな。
「到着しました。牛車はここまでですね」
「ここまで?」
御者台からこちらを振り返ってきたジランドの台詞に、おやと思う。その肩越しに外を見たら……ああ、他にも同じような牛車がいっぱい泊まってるわ。それで理解できた。
「駐車場なのか。なるほど」
「ここからメイヒャーディナルの戦場まで、ちょいと歩いていくそうです」
要するに観光地の少し手前までしか牛車では行けなくて、あとは徒歩ってことだ。山の中の観光地だし、そりゃまあ当然か。
って、戦場、なんだな。
「ってーとつまり、バングデスタが倒された現場か」
「そうなりますね」
ボソリと呟いた俺の言葉を受けたのは、カーライルの頷きだった。少し怒ってる感じなのは、やっぱりマーダ教側のえらいさんがやっつけられた場所、だからかな。
まあそれより、降りないとなと思ったところでジランドが再び声をかけてくる。考えることは一緒というか、当然のことで。
「牛車止めて来ないといけないんで、すいませんがシーラ様、カーライルさん、よろしく頼んます」
「任せよ。カーライル、先に降りろ」
「はい」
後ろの戸ををさっさと開けて、カーライルが牛車から降りる。俺たちもすぐにそちらに動くけど、背後からシーラが俺の腰を両手で抱えた。
「コータ様、失礼いたします」
「おう」
いや、抱えるより先に言えよとは思ったけど、そこで文句をいうほど俺は暴君ではないつもりなのでいいや。大体、やりたいこともわかったし。
だって、牛車の後ろでカーライルがこっちに手を伸ばしてきてるからな。満面の笑顔で。
「はい、コータちゃん、どうぞ」
「おー」
シーラの手からカーライルの手に渡されて、少しだけふわりと浮いた感じになって、そこから地面に下ろされた。
ちっちゃい子供の身体だからやってもらえるんだろうけど、これはこれでなんかいい感じだな。空飛んでるみたいで。
いや、シーラに頼んだら抱えて飛んでくれるか。……シーラが言ってた、でっかい鳥の魔物に乗って飛ぶのもいいなあ。
「コータちゃん、大丈夫でしたか?」
「平気でしたよー。山道は揺れるから、酔わないかなってちょっと心配でしたけど、シーラお姉ちゃんがいてくれましたから」
「それは光栄です」
カーライルと話してると、牛車を降りてきたシーラが……ああ、これまた満面の笑みだ。もしかしてお前、俺の背もたれやってる間ずっとそんな顔だったりしたのか?
「……牛車に戸が付いていてよかった、とあれだけ思ったことはありません」
こっそりカーライルに聞いてみると、そんな答えが返ってきた。満面の笑み、というよりはにへらっとしてたのかもな。
大丈夫かな、俺の配下こんなんで。




