229.教会内でものんびりと
「ようこそ、聖地中央教会へ。他派閥の方々を、我らは歓迎いたします」
中に入ると、うわあ何て旅行代理店という感じのレイアウトだった。
正面には一応紋章がかかげてあるんだけどさ、その下にあるカウンターとか壁際のテーブルの上に置いてある……あれ、やっぱりマップじゃなくて観光用のパンフレットらしい、あの紙とか。
で、俺たちにようこそと言ってくれたのはさっき呼んでくれた僧侶さんではなく、中にいたずんぐり系のおばちゃんぽい僧侶であった。何となく、ドンガタの村の人を思い出す。山の中だし、同じ種族かもしれない。
「ファルンと申します。こちらの派閥のことで失礼があるかもしれませんが、ご教授よろしくおねがいしますわね」
「殊勝な心がけ、戦士クルンガもお喜びになるでしょう」
速攻で頭を下げたファルンとほのぼのとした……多分してるはずの会話を交わし、おばちゃんはこちらへどうぞとカウンターの一箇所に俺たちを誘ってくれた。ああ、いくつかのブースに分かれてる感じなのね。
でまあ、教会改め旅行代理店ブースなので聞かれることは大体決まる。宿の手配と交通手段、この場合は牛車な。
「ご一行様は、何名でしょうか」
「六名……いえ、八名ですね。牛車の乗り手が二人おりますので」
「御者様含め八名。はい」
まじで旅行代理店、それもコンピュータとかないから昔っぽい感じだ。人数が二人分増えているのはああ、ジランドたちも込みか。そうだよな、一応外の人間だし。
「メイヒャーディナルの峠に向かわれるのであれば、牛車については預かり所がございます」
「峠を詣でるのには、小型の牛車を使うのでしたわね」
「はい。預かり所の方で、峠詣で用の牛車を貸し出しております」
「なるほど」
ファルンとおばちゃんで、テキパキと話は進む。そっちはもうファルンに任せるとして、俺たちは暇だということでパンフをガン見することにした。
「コータちゃま。これがメイヒャーディナルのとうげ、ですね」
「そうみたいですねー」
ミンミカが取って見せてくれたそれには、写真代わりの風景イラストと共に峠の名の由来やら物語やらが書いてある。
勇者メイヒャーディナル、そして戦士クルンガをはじめとした一行が獣王バングデスタと戦い、神にもらった力により倒すことができたという普通の英雄譚。
イラストのメイヒャーディナルは小柄だけどかっこいいお嬢さんで、対してクルンガはいかにも、なマッチョゴリラ姉さんだった。……本物見たことあるシーラに、こっそり「似てるか?」と聞いてみた。
「……ここまで露骨な筋肉質ではありませんでしたが、まあ似てます」
「そうか」
一応似てはいるんだ。ま、クルンガも神の力とやらを頂いてた可能性はあるからなあ……サブラナ・マールがどういう女の好みしてるか知らないけど、夜をご一緒したんだろう。
……今の俺だと、逆に潰される可能性のが高いけどな。このイラストのクルンガだとさ。
「御者様も含めて八名、牛車貸出及び預かりもセットでよろしいですね?」
「はい。それでお願いします」
ファルンの方は、そろそろ話がついたようだ。てか、ファミレスで言うところの「ご注文は以上でよろしかったでしょうかー」の同類みたいな言い方してんな。
つってもこういう街だし、セットで予約というか入れられるんならそれはそれで楽だよな。……ボッタクリじゃなけりゃ、だけど。
「では全て合計いたしまして……」
「ありがとうございます。あの、カーライルさん、シーラさん」
合計金額が出たところで、ファルンは二人の名前を呼んだ。『ん?』とそちらを向いたカーライル、そしてシーラにファルンがお願いごとをする。
「わたくしはこの値段が順当なものなのか、よくわかりません。見ていただけますか?」
「ああ、そういうことであれば」
「構わんぞ。しかし、失礼ではないか?」
「いえ。ご納得の行くお値段であるとこちらも自負しておりますので」
一種の価格交渉かよ。あと、おばちゃんの方も自信持ってるぞ、あれ。
確かに、ファルンから見てぼったくりな金額でなくても、カーライルたちが見てどう思うか分からないもんな。育った環境とか違うし、言ってもファルンはマール教の僧侶でそういう環境には慣れてるし。




