022.しばらくここから動けない?
寝て起きて、今朝はファルンが服を用意してくれた。
これもナーリアの教会にあったもので、淡いベージュのワンピースだった。すとんとしたやつで、腰絞ってないから楽な感じ。
あと、髪の毛をツインテールか、そんな感じに結んでくれた。
「このような感じで、いかがでしょうか」
「うん、ありがとう。楽だし、動きやすくていいな」
「ありがとうございます」
まあ、俺に女の子としてのセンスを求めるのは無理だからな。この世界と元いた世界でも違うだろうし、第一中身がなあ。
「おはようございます、コータ様。おや、愛らしい」
「肌の色が濃いですから、明るい色のお召し物が良くお似合いです」
カーライルは多分、どんな服着てても何がしかの褒め言葉しか出てこない気がするので放っておこう。
でも、シーラの言葉は参考にするか。たしかに、褐色肌に濃い色の服だと真っ黒って感じになるもんなあ。……夜中にどこかに忍び込むのには、ちょうどいいか。
「ともかく、普通の空腹を満たしに行きましょうか。食事は下の階で摂れますよ」
『はーい』
そんなふうにカーライルに言われて、俺たちは同時に答えてしまった。いや、たまたまだけどさ。
精気の方の空腹は昨夜ファルンで済ませたから、しばらくは大丈夫そうだ。なんで、普通に飯を食う。飯食わないと、何か疑われそうというのもあるんだけど。
「……私、父親か何かですかね……」
「近いものはあろうな。少なくとも外見上、コータ様の保護者ではあるだろうし」
「恐れ多いことです」
何言ってんだ、カーライルとシーラ。カーライルがお父さんなら、シーラがお母さんか。
……うーん……外見上はそれでもおかしくないんだろうな。ただ、二人とも微妙に頼りないところがあるからなあ。
「いかがなさいました? コータ様」
「いや、別に。朝ごはん、行こうか」
かといって、ファルンが頼りになるかといえばなあ。マール教僧侶、という点ではとっても頼れるんだけどさ。
「エンデバル行きの乗り合い牛車は、しばらく運行休止だそうです」
宿の一階で、パンと干し魚を焼いたものとサラダで構成された定食を食ってる最中、シーラがその話を聞きつけてきてくれた。
「やっぱり、例の問題でですか?」
「ええ」
ししゃもっぽい魚をばりっと食らいつつ尋ねるカーライルに、小さく頷くシーラ。例の問題、つまり俺の信者関係ってことか。
ところで、何でお前が食ってるやつばかり卵が入ってるんだよ。子持ちししゃものあのぷちぷち感、俺好きなんだぞ。
「マーダ教信者の消息がまだはっきりしていないようで、あちらから来るはずの牛車がエンデバルから動けていないとのことです。こちらもさすがに、動かすわけにはいかないということでした」
「乗り合い牛車だと、中に紛れ込んじゃう可能性ありますもんねえ」
ファルンの言葉に、ああそうかと納得する。要はテロリスト容疑者がどっかに逃げるかもしれないから、人の出入りを厳しくしてるってことだもんな。
乗り合い牛車はある意味公共の交通機関みたいなもんだから、こういう事情で止まってるってのは分かる。ただ、移動手段はそれだけじゃないだろう。
「牛車だけが移動手段じゃないよな」
「自分で牛車を持っていたり、馬に乗ったりして移動する者はおります。ただ、検問は厳しいと思いますわ。わたくしどものように、マール教の修行中ということでもなければ」
「なるほど」
ま、そうですよねー。あとファルン、しれっと言ってるけどマール教、身内に甘すぎね?
何しろ、僧侶の修行に着いてきたのが邪神と邪神の神官だぞ。少しは怪しめ。いや、怪しまれても困るけど。




