227.街の戦士はどんなやつ
「……異端、てそういうことか……」
教会への道のりをのんびり行く牛車の中、俺はそんなことを呟いて髪を軽くいじった。カーライルとファルンが楽しそうにお手入れしてくれるので、俺自身があんまり気にかけていない割に結構きれいなままである。
「というか、ゆうしゃがいちばんえらい、じゃないんですね」
「戦士クルンガ、って言ってたもんな……それでクルンゴサか」
アムレクの指摘に、ふっと気がついた。そうだ、他のところでは勇者何やらがどうのこうの、って話ばかりだったもんな。
それがここでは、勇者に同行していた戦士を派閥の名前や、街の名前に使っている。そういう意味でも異端か。
「戦士クルンガ……」
「シーラは知ってる……みたいだな?」
「はい。数度戦ったこともあります」
俺の台詞を口の中で繰り返した、つもりなんだろうけれど聞こえていたから、シーラに尋ねてみる。答えはイエスだったし、昔の戦争のときに戦った相手、だというのは話を聞いていれば分かる。わかるんだけど、さあ。
シーラがこんなにげんなりした顔になったの、初めて見た。というか『数度』ってことは、シーラと戦って生き延びられるレベルの戦士ってことなんだよな。
「人間の女性だったのですが、その……」
クルンガのことだろう、シーラはぽつりと話して、一瞬口を止めて、それから。
「自分どころかジランド殿よりも大柄で筋肉質で、力に見合う剣がなかったものですからそこらに生えている木を引き抜いて得物としておりました」
「ぶっ」
一気に言い放った内容に吹き出したのは、俺だけじゃなかった。ちらっと御者台の方見たら、ジランドの肩が小刻みにとは言えないレベルで揺れてやんの。コングラが「親方、笑っちゃ失礼っす」とか声をかけてるけど、お前の声も笑ってるぞー。
うんまあ、マール教側の戦士だから女性なんだろうとは思ってたけど。マッチョでパワフルアマゾネスかよ、戦士クルンガ。
……いやそれはそれで見てみたいけど。ルッタと違う意味でめんどくさそうだな、力こそパワーだって感じで。
「というか、決着つけることできたのか?」
「いえ。そのう、自分とはかなりいい勝負でして、戦の終わりがたには奴が出てくるとむしろ、楽しみになっておりました」
「せんしクルンガってひと、めちゃくちゃつよかったんですね」
「そういえば、あちこちの勇者譚でも時折名を拝見しますわね。同名の別人か、一種の称号だろうと言われているのですが」
ミンミカがすごく感心してるのは分かる。ほんとにシーラと互角の腕の持ち主だったらしいしな、うん。
それと、ファルンの言葉には俺が納得した。あちこちの話に同じ名前が出てくるのが、どうやら全部一人のパワフルねーちゃんだってことが今のマール教には理解できてないらしい、ってことか。
ま、クルンガ派が崇めてもおかしくはねえわな。あっちの勇者、こっちの勇者、いろんな勇者と一緒にマーダ教をぶっ飛ばし……こちらとしてはぶっ飛ばされた戦士なわけで。
万が一生まれ変わってきていたら、最大の敵になるってやつだろうなー。
そんなふうに考えて、俺は思わず遠い目をしてしまった。
「まさか、シーラたちみたいに生きてるってことないよな」
「そうなったら、また自分と戦の繰り返しですね」
ついついそういう可能性を口にしちまったんだが、それがさらにシーラの表情を暗くしてしまって本当、ごめんな。




