226.峠の入口どんな街
その後は襲撃やら何やらといった問題が起きることもなく、かつジランドが急いでくれたからか、サヴィッスを出てから五日ほどでクルンゴサに到着した。
メイヒャーディナルの峠に続く山道への入口、ということもあって周辺は高原みたいな感じ、気温はこれまでよりも低めだ。ま、可愛いポンチョとか買ってもらってるから問題ないけどな、俺は。
街の周囲は、大人の胸くらいまでの高さがある石垣で囲まれている。その上に植わっている木々は枝にトゲが生えていて、多分鉄条網の代わりなんだろうな。ジャンプ力のある獣人とか、それ以前に鳥人相手だと効果ないと思うけど、まあいろいろあるんだろう。
「聖地クルンゴサへようこそ、旅の方々」
特に扉があるわけでもない入口から入っていくと、えらくシャッキリとしたローブっぽい服のお爺ちゃんに声をかけられた。何、ゲームで新しい所に着いたときに地名教えてくれるNPCかよ、と思ったけれど。
「聖地なんですか?」
「はい。おお、そちらの僧侶様はサブラナ派の方でございますね。なればご存じなくとも致し方ない」
幌の中からファルンがそう尋ねると、お爺ちゃんは白い眉の下の目を細めて大きく頷いた。口ひげも白くてスキンヘッド、だからNPCぽいかなって思ったのかな、俺。
「我がクルンガ派は、この地こそがマール教における最大の聖地と考えております。今この世界ではサブラナ派が多数を占めておるため、この主張は受け入れられておりませんが」
クルンガ派、というのか。そういやこの街、異端派だって言ってたな。お爺ちゃんが言ったサブラナ派ってのが多数派、なわけだ。ま、神都サブラナっていうくらいだし。
「何しろ、メイヒャーディナル様を始めとする勇者たちと共に戦い、ついには邪神を降伏せしめた最大の功労者たる戦士クルンガ様の出身地であり神のもとに帰った地でもあるのですから」
「は、はあ……」
あ、カーライルが全力で引いてる。お爺ちゃんが有無をも言わせぬ勢いでまくしたててきたから、だろうけど。
要はこの街は、その異端の人たちが崇めてる戦士クルンガとやらの故郷。だから、クルンガ派を名乗る人たちはここを聖地としているわけね。はいはい。
「あのう」
とりあえず、お爺ちゃんにしゃべらせて日が暮れても問題なので、話の腰を折るために俺が声をかけた。ロリっ子が口を挟めば、大人よりはまだ空気を悪くしないだろ。
「わたしたち、ここで一晩泊まってからメイヒャーディナルの峠に行きたいんですけど、大丈夫ですか?」
「はい、それはもちろん!」
あ、かえって機嫌が良くなったぞ、お爺ちゃん。もっとも、この街ってその峠に行くための入口でもあるわけだから、営業にもなるんだろうけど。
「お宿でしたらご予算に応じていろいろお選びいただけますし、峠詣でに最適な山道もスムーズに移動できる小型牛車の貸出も行っておりますよ。詳しいことは、聖地中央教会でお話を聞けば分かります」
「あ、ありがとうございます」
何この営業だか客引きだか分からねえ口ぶり。もしかして、お客さん減ってきてるのかな……とちょっとだけ思った。
とりあえずウサギ兄妹とシーラがうんざりしてるし、ジランド、コングラ、早く牛車を動かしてくれえ。




