218.他にもこっそりついてきて
シーラが行った方向に足音を忍ばせながら向かう。結構木が邪魔だな……枯れ葉も多いんだけど、風が吹くとがさがさざわざわと意外に賑やかだから何とかなるか。
しばらく進んでいくと、かすかに金属音が聞こえてきた。ガツン、とかキン、とかいうぶつかる音なんで、あーこりゃ既に開戦済みか。というか俺の方向感覚、間違ってなかったみたいでホッとした。
「はあっ!」
「ふん!」
おう、声も届いた。もう少し近づいたところで、やっと二人の姿を確認できる。
森の中の、木々が少なくなったところで二人がやり合っている。それでも木が邪魔で剣を振り回すのはちょっと大変そうだけど、どうも突きメインで戦ってるみたいだな。
それ以外にも何となく動きが鈍いな、と思ったけど、その理由は同じことなのですぐに分かった。
森の木の枝が邪魔で、空飛べない……のはともかくとして、木がいっぱい生えてるから、背中に大きな翼背負ってる鳥人には動きにくい場所なんだ。
って、それはシーラも一緒だよな。鳥人同士なので、逆にハンデというわけでもない戦闘。
「どうした。その腕で、このルッタに勝てるとでも思ったか」
「勝つべき、と思ったのでここに来たまでのこと」
「ならば、己のその愚かさを胸に刻むがいい!」
俺にはどちらが優勢だとかはよくわからない、というか俺の目からだと大体イーブンに見えるんだけど、本人たちにしてみたらルッタの方が優勢、らしい。
そういう前提で、もう一度二人の戦いをガン見してみる。……言われてみれば、シーラがルッタの攻撃を防ぐほうが逆より多い、かも。いや、ほんとにちょっとした差なんだけど。
「あ」
遠くからがさがさと、空気を読まずに木々や下草かき分けて接近してくる音がした。うちの連中が来るとは思えないから、ルッタの部下だと読んで手近な木の幹の影に隠れる。ちっこい身体だから、隠れるのは楽でいいやな。
「ルッタ様!」
「きゃっ!」
ほらやっぱり。
教育部隊の鎧娘が二人ほど、ルッタを追っかけてきたようだ。シーラとルッタの戦闘に割って入ろうとして、その二人が同時に剣を横薙ぎにするという方法で足止め食らった。
「お前たち、何をしに来た」
「鳥人のあなたには、この地は不利! 私たちも、援護します!」
「ルッタ殿に、助太刀が必要だと?」
上司であるルッタの問いに答えた鎧娘たち。それを笑ったのは、シーラだった。
ああうん、これってつまり鎧娘たちが、ルッタの腕を甘く見てるってことなんだろうな。シーラの方が、よっぽど分かってる。
「これは私とこの女の問題だ。お前たちは手を出すな、でなければ斬る」
で、甘く見られたルッタの方もちょっと怒ってるようだ。自分の配下に剣の切っ先を向けて、低い声で命じる。
ああ、ありゃ急いで逃げないとほんとに斬られるぞ、彼女たち。
「は、はいっ」
「し、失礼いたしました!」
慌てて鎧娘たちは、木々の間に下がる。手出しはするな、と言われたわけなので観戦に徹することにしたようだな。
……俺は元のアルタイラを知らないわけなんだが、元からこういう性格だったのかね。




