215.こちらはどうすりゃいいのかね?
んもーう、というのんきな声を上げて、牛が動き始めた。あまり整備されてないせいで牛車がガタゴトいってるけど、さすがにそろそろ慣れてきてる。例によってミンミカが背もたれやってくれてるし……良いなあ、リアルウサギ人間ふかふか。
「いや、参ったね」
つっても、牛車内の話題は庵主様のことである。年をとってて経験も豊富だろうとは思ってたけど、さすがに俺のことにある程度気づかれてるとまではなあ。
「あそこまで見抜かれてたとは、さすがに思わなかったっすねえ」
「俺たちのいるところで言ったっつーことは、つまり俺たちもマーダ教だと気づかれてたからだろうしな」
コングラとジランドの会話に、そこまで気づいていたのかなと首を傾げる。同行者でも知らないかもしれないってのはあるだろうし……ああ、こいつらがマール教だったら庵主様が内緒にしてても報告とかするわな、今の世界の状況じゃ。
そのへんに関して、ファルンが疑問を口に出した。
「庵主様、密告など本当になさらないのでしょうか」
「少なくともルッタにはシーラのことはバレてるわけだし、密告されても今更だろ」
いい加減、そろそろバレててもおかしくはねえよな、とは思う。
グレコロンのようにあちこちにいる俺の下僕が、変な動きしてるって思われてもおかしくはない。それにレイダこと海王ネレイデシアが復活してるわけだから、魚人の間でも動きがあるかもしれないし。
「でもでも、コータちゃまがいちばんえらいって、あんじゅさまおっしゃってたですー」
「それを、マール教の連中が本気で聞き入れるかどうか、ですね」
うん、ミンミカ、そうだよな。この中で俺が一番偉い、とあの庵主様は見抜いていた。だから、今俺の胸元で揺れてるこの紋章をくれたんだろうけれど。
マール教の連中が、報告を受けたとはいえ外見獣人ロリっ子な俺を警戒するかどうか。カーライルは「ファルン殿」とマール教に一番近い人間にその答えを委ねた。
「一応、調査はするはずですわ。過去には過敏に反応したがゆえに無実の者を処刑したり、神の教えを心の奥にまで染み込ませるなどの教育をしたことがあるのですが、さすがにそこまでは」
「…………俺が言うのもアレだけど、ひどいことしてんなあ」
おいおいおい。いやほんと、俺が言うのもおかしいけれどさ、それ何だファルン。
冤罪処刑とか洗脳とかだろうが、要するに。ないとは言わないけれど、そうさらりと返されるのもなあ。
あと、過去って言ってるけど今やってない保証はないぞ、うん。
「うわあ、じょうだんじゃないですね!」
「洒落んなってねえっす!」
アムレクとコングラが、ブルブルと身体を震わせた。うん、気持ち分かるぞお前ら。
「その前にメイヒャーディナルの峠、行っちまいましょうや。やりたいこと、あるんでしょう?」
「……うん」
ジランドが牛を軽く急かしながら、そんなふうに言ってきた。そうだな、何ぞされそうになる前に、今んところの目的地であるメイヒャーディナルの峠、そこまで行ってしまおう。
やりたいこと……そうだな、ぶっちゃけるか。どうせ、マーダ教しかいないし。ファルンはともかく。
「獣王バングデスタ。ルッタやレイダみたいに生まれ変わっているだろうから、そのヒントが欲しい」
「四天王のお一人ですな。そうか、関係のある場所に行けば何か見つかるかもしれない、と」
「レイダはそうだったし、ルッタだってサヴィッスで会えただろ。だから」
「情報、何もないっすもんねえ」
人里離れた峠が観光地になってる意味を、ジランドやコングラが知らないわけじゃない。すぐに理解してくれて、なるほどと納得してくれた。
「んじゃ、マジでさくさく行っちまいましょう。クルンゴサはマール教でもちょいと異端系なんで、教育部隊もあまりおおっぴらに動けませんから」
……ジランド、こういう仕事してるだけあっていろいろ知ってるな。ところで、異端系ってどんなんだろう?




