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212.仕事も任務も大変だ

 俺とミンミカは、台車を押して井戸までやってきた。積んである桶に水を汲んで戻ればいい、大変お手軽な任務である。

 ……桶と水、重いけどな。


「このくらいでいいでしょうかー」

「そうですねー。足りなかったら、もう一回汲みにくればいいですし」

「おっけーでーす」


 学校で掃除に使うようなバケツが、だいたい二杯分は入るであろう桶。ミンミカにたっぷり水を汲んでもらい、蓋を乗せる。このまま慎重に台車を押して帰るだけのお仕事、だったんだけど。


「ちょっと、いいだろうか?」

「ほえ?」

「はい?」


 井戸と小屋の中間くらいで、呼び止められた。声の方に振り返ると、キリッとした栗色短髪の女性。見たことある軽装鎧を身に着けていて、ぴしりと直立している姿勢がかっこいい。

 それはともかく、何か用事があるんだろうし聞いてみよう。


「なんですか?」

「マール教教育部隊の者だが。シーラという鳥人の剣士について、話を聞きたい」


 なるほど、どおりで見たことのあるスタイルだ。サングリアスと同じ格好してるんだよな、気づけよ俺。

 で、シーラについて聞きたいってことは、ルッタの配下か。後ろから追いかけてた連中が追いついた、ってことでいいのかね。そうすると、そろそろボロニアたちも来るかな。

 俺たちはシーラの正体に気づいていないこと、あとルッタに対する人質みたいなもんにされてることになってる。多分、ルッタも配下にシーラのことをはっきり言えてないか、言えてても俺たちのことも言ってるだろう。

 だから今目の前にいる彼女は、直接あいつはマーダ教かなんて聞けないんだよね。大変だ。


「シーラお姉ちゃんですか? かっこよくて優しい人ですよ」

「ミンミカのことも、おにいちゃんのこともたすけてくれました!」


 俺もミンミカも、嘘をつかずに素直に述べる。特にミンミカの答えなんて、調べたらちゃんと証言とか出てくるレベルだもんな。


「お兄ちゃん?」

「ミンミカお姉ちゃんのお兄ちゃんで、アムレクって言います。エンデバルの教会にマーダ教の信者が立てこもったときにそこにいたんですけど、シーラお姉ちゃんが助けてくれました」

「あ、ああ。エンデバルの事件については報告が来ているが……そうか」


 ミンミカの代わりに俺がざっと説明すると、彼女は頷いた後少し考える顔になった。

 やっぱり、報告は上がってるんだよな。そりゃそうだ、教会付きの僧侶が殺されてるもんなあ。


「どうして、シーラさんのおはなしをきくですか?」

「いや、上司からの指示でな。こちらも詳しいことはわからないんだ、すまない」


 ミンミカの空気を読まない、というか本気で疑問だったのを尋ねてみたらしい質問に、教育部隊の彼女は多分これも本音らしい答えを返してくれた。上司ってルッタだろうな……マジで説明してないのか、したけどバラせないのかは気にしないことにしよう。


「そうですか……おしごと、たいへんですね」

「え? ああ、ありがとう」


 おや?

 何だ、今の一瞬の間は。まるで、聞き慣れない台詞聞いてびっくりしたみたいで。


「お前たちも、僧侶殿の修行に同行していると聞いている。大変だろうが、頑張ってくれ」

「はい、ありがとうございます!」

「お仕事、頑張ってくださいねー」

「……あ、ありがとう。頑張る」


 おいおい、やっぱり間があったぞ。あと、めっちゃ嬉しそうに手を振って去っていったし。

 これは本気で、ああいう台詞を聞き慣れてなかったな。


「……すわなくても、コータちゃまのげぼくになりそうですけど」

「よっぽど、頑張れとか大変だねとか言われ慣れてなかったみたいですね……」


 俺も仕事大変だねえとか、ほとんど言われたことなかったけどさ。

 彼女のあの反応は、ミンミカがそんなこと言ってしまうくらいのレベルだったわけだ。確かに教育部隊ってあまり好かれないような任務内容だろうけどさ、ちょっとはお疲れ様とか言ってやれよ。なあ。

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