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210.腹が減ったが飯はどうする

 しばらくして、庵主様が「お前さんがたじゃと、ココらへんかのう」と示してくれたのはちょいと大きめの小屋だった。中を見てみると三部屋ほどと、あと台所があるな。風呂とトイレまではないのがこの世界じゃ普通だから、そこはあきらめる。


「鳥の嬢ちゃんもいるでな、このくらいの部屋がよかろ」

「恩に着ます」


 大きめのところを選んでくれた理由が、どうやらシーラの翼らしい。それが分かって当人が、素直に頭を下げた。

 牛車の中じゃシーラ、頑張って翼縮めてたもんなあ。ごめんな、と思う。


「いやいや、困ったときはお互い様じゃからね。ただし、きれいに使っておくれよ?」

「分かっております」


 今度はカーライルが頷いた。何というか、すっかりお目付け役というかお父さんと言うか、そういう存在になってしまってるよなあ。


「風呂は教会にあるで、嬢ちゃんたちは入るならおいで。男は裏の川で水浴びでもしてくりゃええ」

「わかりましたあ」

「厠はあっちの奥と、教会の裏にもあるえ。井戸はここじゃね」


 ぽんぽん、と庵主様が手で叩いたのは、腰くらいまでの高さがある石の囲い。言われてみて、上に屋根と釣瓶があるのに気がついた。

 うむ、しっかり見ろよ、俺。


「分かっておると思うが、井戸と川は汚してはならん。そのようなことをやらかした時点で、ここから叩き出すわえな」

「十二分に気をつけます」

「だいじなおみずなので、よごしたりしません!」


 前の世界以上に、この世界では飲める水は大事なもんだ。それ故の庵主様の注意に、ファルンはじめ俺らはびしっと背筋を伸ばした。思わずアムレクが叫ぶように答えたのも、よく分かるよなあ。




 で、庵主様と別れて小屋に入り、荷物を下ろす。あー、普通の意味で腹減った。

 それはみんなも同じだったようで、ファルンが声を上げる。


「夕食用に、食材を頂いて参りましょうか」

「そうだな。それで、台所で調理……」


 カーライルが答えかけて、ふと言葉を止めた。あれ、どうしたんだ……と考えて、思いついた。


「誰か、料理できるのか? 俺はできないんだけど」


 食材は、ある。台所も、ある。それはつまり、食材で料理を作って食え、ということだ。

 そういえば今まで、自分たちで台所で料理とかすることなかったな。野宿のときは保存食か、焼いて食うだけだし。

 あ、ちなみに俺、一人暮らしだったけどインスタントだったりレンジでチンだったり外食だったりなんで、ほぼできない。最終的には、料理作る余裕すらなかったしなあ。


「……や、焼くだけなら」

「私も、焼くだけでしたら」


 シーラとカーライルは焼くだけ、か。肉も野菜も魚も、シンプルでいいけど……それは野宿用だ。


「ミンミカ、おやさいそのままたべられたらだいじょぶです」

「ぼくも、サラダぱりぱりです」


 ウサギ兄妹は、料理以前の問題だったらしい。街に出てきたら普通に飯食ってるけど、そもそも草食だしな。

 で、そうなると残るは、ファルンだけなんだけど。


「マール教では、修行の手始めとして料理と掃除、そして洗濯についてみっちりと教え込まれますの。ご安心を」


 困りましたねー、と言った感じに顔を引きつらせながらも、ファルンがそう言ってくれた。ああよかった、やはりマール教最強。

 ……おいマーダ教の神官、お前らはそういうのやってなかったのか。やってなかったから焼くだけ、なんだな? カーライル。


「そのかわり、皆様にもできる仕事を割り振りますから。そのくらいはやってくださいましね」

『はーい』


 いやもう、できることならちゃんとやりますから。

 ちゃんとしたご飯を食べるためなら、はい。

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