207.次の次のその前に
「あ」
ふと、コングラが声を上げた。
「ランブロードに寄らないなら、一応中継地点ありましたよね? 親方」
「ああ、あったな」
ジランドに確認をとってから、こちらを振り返る。つか、あるなら早く言えよと思ったんだけど。
俺が口を開くより先に、シーラが問いを放った。
「中継地点、であれば宿の類か。何かあるのか?」
「狩猟民の集落に、マール教の教会があったっす。ランブロード外すとなると宿が少ないんで、よく旅人が泊まってるっすね」
「わあ」
これは俺の感想。いや、確かに一番ありそうな施設ではあるけどさ。
つか、狩猟民か。言われてみれば、いてもおかしくないんだよな。今まで農民や漁師は見てきたわけだし、猟師がいないと肉の種類も少ないだろうし。……前の世界じゃ、ジビエなんて食う機会なかったなあ。シカとか食えるかな。
ま、それはいいさ。結局、今までどおりに行動すればいいだけだ。
「正体がばれなきゃ、それでいいだろ。後ろの教育部隊からしたって、シーラがマーダ教だってのを隠して俺たちと旅してるんだ、ってことになってるんだしさ」
「私やコータ様などは、シーラ様の正体を知らずに共に旅しているマール教信者、だと思い込まれているわけですね」
そうそう、カーライルの言う通り。実際は俺がマーダ教の主神で、ジランドたちも含めて俺の配下と下僕、なんだけどな。
シーラ、うまいことやったなあと思うよ、今なら。
「なるほど。それなら、教会で一夜の宿を取るのは何もおかしくないですね」
「元々、わたくしの修行の旅に付き合っていただいてるのですからね。表向きは」
ジランドと、そしてファルンがあっさり同意してくれる。とはいえファルンはともかく、ジランドは元からマーダ教だからすっげえ複雑だったりするんだろうか、内心。
そういった心境を気にすることなく、シーラがいまいち空気を読まないように発言した。
「自分はしれっとマール教信者のふりをしていればいいので、まったく変わりはありません。教会で泊まるのも問題なく」
「アムレクとミンミカは……ああ、大丈夫だろ」
「ぎっしゃものじゅくもへいきですけど、ぼく、ベッドでねるのがすきです」
「ミンミカもですー」
もっと空気を読まないウサギ兄妹は、これが本音だろう。
というかお前ら、宿に入ったときにベッドで爆睡する理由の一つはそれかよ。いや、俺だって牛車の荷台で寝るよりそっちの方が良いに決まってるけどさ。
「行けそうか? ジランド」
「六日間牛車で寝泊まりするよりは、少しでも楽になるでしょう。では、そっちで行きまさあ」
「お願いしますわね」
ジランドが頷いてくれたので、そのマール教教会を目指して進むことになる。
ついでに吹き込んで行ければいいけど、他に客人がいたら無理かなあ。教育部隊ついてきてるし、ここらへんは慎重に行かないと。
「確かに、ゆったり横になって寝たいですね。背中がバキバキいってしまって」
「羽根を伸ばしたい、です」
教会で泊まることになって、配下たちの本音が出た。座りっぱなしだからカーライルの言葉も分かるし、シーラは文字通り背中の羽根をのんびり伸ばして寝たいよなあ。鳥人って、こういうときは大変だ。
「ぶっちゃけると、俺たちもそっす。牛も預けておけますし」
「あ、そうか」
コングラが本音ぶっちゃけてくれて、俺はやっとその事に気づいた。牛だ、牛。大事な移動手段。
牛車で寝たり野宿だったりすると、餌とか手入れとか泥棒に対する見張りとかもジランドとコングラが全部やることになる。それならマール教の教会でも、宿に泊まらせてもらったほうが二人も楽になるんだよな。少なくとも、夜の警戒は任せられるだろうし。
「はっきり言ってもらえてよかったよ。そうだな、ジランドもコングラも休みたいもんなあ」
「こちらこそ、そう言っていただけて助かりますよ」
はは、と笑ってジランドは、お客人に気を使わせるなとコングラの頭に軽くげんこつを落とした。




