202.自分も奴らものんびりと
そこから一日ちょっと、のんびりとした行程が続いた。
ああそうそう、ボロニアたちは別働隊として、少し遅れてついてくるらしい。多分、俺たちをつけてきてる牛車のさらにその後ろ、だろう。そのあたりは、ジランドがうまく手配してくれたとのことだ。
その、教育部隊の牛車は頑張ってついてきていて、一晩めの野宿は少し離れたところでやっていた模様。こっそり見に行ったアムレクが、「よにんいて、こうたいでみはりしてます」って教えてくれた。
貨物牛車なら山賊とか襲ってくる可能性もあるわけで、当然見張り人員は必要。マール教の教育部隊だから戦闘力としては申し分ないんだろうけどな、俺みたいな能力持ちとかいたら大変だな、とは思う。
でまあ、平和に進んでる以上何もやることがない。一日目は緊張してたんだけど、教育部隊がふっかけてくる様子もない、ので。
「コータちゃま、しばらくおひるねしませんか!」
「ん、そうだなあ」
「自分とカーライルが警戒をしております。ごゆっくりお休みください」
「ええ。ファルン殿もいますし、アムレクもミンミカも昼寝が終われば見張り当番だぞ」
「わかってますー」
「わかってるです!」
と、そんな感じで俺は、ミンミカをベッド代わりに爆睡した。身体ちっこいから、あんまり無理すると反動が来そうでなあ。
「コータちゃま、おきたですか」
「んー」
起きると、だいぶ気分はすっきりしてた。
幌の間からちらりと見えた太陽は……前の世界と同じで、東から登って西に沈むんだけど、だから高度が違ってきている。方向は、道が曲がってるかもしれないからな。あんまり気にしないようにしているんだけどな。
「おはようございます、コータ様」
「おう。今の当番、カーライルか」
「はい」
向かいに座っているカーライルが起きているんで、見張り当番だと分かった。彼の両隣でシーラとファルンが寝ているんだけど、うらやましくはないなあ。ま、シーラは俺の配下だしファルンは俺の下僕だから、なんだろうが。
アムレクは、妹の横で丸まって眠っている。時折垂れ耳がぴくん、ぴくんと動くのはまあ、草食系だと警戒してるのは当然だ。
で、ミンミカが進行方向とは逆をちらりと見た。肩をすくめて、俺に教えてくれる。
「マールきょうのぎっしゃ、まだついてきてるですよ」
「おー。頑張ってるなあ」
「あちらも任務ですからね」
カーライルも同じ方向に一瞬だけ視線をやって、苦笑を浮かべる。どれどれ、と首を伸ばして見てみるとああ、だいぶ後方にだけどちゃんとついてきている偽装貨物牛車。よーしがんばれ、何もしなけりゃこっちだって何もしないぞ。
ばっればれの追跡が任務ってのも、ある意味かわいそうだな。そうは思うけど、荷物運んでることにしてるんなら同じ方向に向かう牛車があってもおかしくないし、しばらくほっとこう。連中が警戒してるのは俺じゃなくて、多分シーラだしな。
「コータ様、起きておいでですかい?」
「あ、うん」
御者台から、ジランドの声がする。教育部隊とは距離が離れてるので、あまり気を使う必要はないと判断したようだ。
「もうちょっとしたら、例の川を越えますんで念のため」
「おう、そうか」
ジランドのその言葉を、俺はありがたく思った。
いやさ、橋の上とかで敵が出てきたりするってこと、あるだろ? 何しろ、敵対者を橋の下に落とせば良いんだから戦闘としてもかなり楽だし。




