201.出たら奴らもついてくる
ルッタと会った次の次の朝に、俺たちはサヴィッスを発つことにした。
ジランド曰く「今なら余裕で川越せますよ。上流もここ数日、晴天続きなんで」という理由からだ。増水した川、渡りたくないもんなあ。
「機会がありましたらぜひ、またお越しくださいませ」
「ありがとうございます。弟さんにはこれからもお世話になりますわ」
宿の玄関で、ベングラさんが俺たち……というよりはファルンに深々と頭を下げている。僧侶一行に泊まってもらってなんぼの商売だもんなあ、大変だよな、ホント。
「ははは。コングラ、皆さんに失礼をしてはいかんぞ」
「分かってるって。親方にも、そこらへんは厳しく言われてるし」
話の矛先を向けられたコングラ、困ったように顔を引きつらせてる。あれでも、笑ってるつもりなんだろう。
一応ルッタの話はジランドたちにもしておいたから、何となく警戒してるのかね。シーラ以外、気づいてないことになってるんだから気にしなけりゃいいのに……ああ、無理かな。昔からマーダ教信者、マール教の目には気をつけていたんだろうし。
「それでは、また!」
「ありがとうございました。またのお越しを、お待ちしております」
程々に話を切り上げて、俺たちの乗った牛車はゆっくりと動き出した。この前入ってきた門とは反対側にもう一つ門があって、そちらから外に出るとのこと。ただし、風景はあまり変わらない……しばらく外を見ないようにしよう。うん。
「……来てるっすよ」
街を出ると、まあ当然だけど下り坂になる。それを大体降りきったくらいのところで、最後部にいて道をチラチラ確認してるコングラが声をかけてきた。
「少し後からついてきてる小さい牛車、普通の貨物牛車に見せちゃあいますが、あれ教育部隊ですわ」
「マジかー」
「乗ってるお嬢さん、見たことあるっす」
どれどれ、幌の隙間から後ろを伺う。
小さい牛車……ああ、アレか。ちょっと車間距離開けてついてきてるやつ。
向こうの世界で言うところの軽自動車くらい、引いてる牛も小さめなんだけど筋肉質だな。で、御者をしているのがキリッとした感じの女の子だった。うん、確かに教育部隊っぽい感じ。
「サングリアスじゃねえなあ」
「あら、残念ですわね。彼女でしたら楽でしたのに」
知ってるやつじゃないことを伝えると、ファルンが本気で残念そうに肩を落とす。うん、確かにサングリアスが来てくれてりゃ適当に合流して情報もらえたんだけど。
「そこまでうまくはいかんでしょう。それよりのんびりしといてくださいよ。次のランブロードまでは三日半かかりますんで」
「サヴィッスに入る前にも言っていましたね」
御者台のジランドから、張りのある声が飛んでくる。それにカーライルが答えて、それから質問が出てきた。
「川まではどのくらいありますか?」
「この調子だと、明日の昼過ぎには越えますぜ。仕掛けてくるなら、そこの可能性があります」
「分かりました。シーラ様」
ジランドの答えの後についてきた言葉は、教育部隊がなにかしてくるなら、ということだろう。だからカーライルも、シーラに視線を振る。
「連中にとっては、自分だけがマーダ教信者で他の者たちは何も知らぬマール教信者、だろう。仕掛けるならば、自分が一人になったところのはずだ」
「それなら、そういうじょうきょうにならないと、きませんね」
シーラは結構冷静に状況を分析、結論を口にしたのがアムレクってのはちょっとびっくりしたというか。空気読まない性格だけど、今のは良かったかもしれない。
彼女を一人にする状況にならなければ教育部隊はかかってこないだろうし、かかってきて欲しいならシーラを一人にすればいいわけだし。




