200.どうやら彼女は分かってない
「……ということにしておきました」
「無茶するなあ、シーラ」
宿に戻ってきたシーラの報告を受けて、俺は呆れるしかなかった。
シーラがマーダ教の信者で、俺たちをだまくらかして一緒に旅をしてるってなんじゃそりゃ。
「コータ様から目をそらさせるには、最善の方法だと思ったものですから」
そういうふうにルッタに嘘八百ぶちかましたシーラ自身は、平然とそんな事を言う。ああうん、確かに彼女に俺の正体ばれたらやばいけどさ。……今の状況だと、特に。
「これでルッタ殿は……アルタイラ様は、自分から目を離すわけにはいかなくなります。そのほうが、コータ様がお吸いになる機会を作りやすくなるかと」
「まあ、それはあるか」
続けてシーラが紡いだ言葉には、さすがに納得させられた、かもしれない。
ルッタがマジで翼王アルタイラなら、シーラやレイダみたいに例の白いもやっぽいのを飲み込まされているはずだ。隙を見つけて俺が吸い、そいつを引きずり出せば封印は解ける。
その機会が地味に増える可能性がある、ってことだな。なるほど。
そこら辺は、ぼちぼち機会をうかがうとして。さて、次の問題。
「しかし、シーラしか分からなかったんだな。それなら、俺のことも分かりそうなもんだけど」
「私はともかく、コータ様のことを分からなかったのは不思議ですね」
これこれ。カーライルも、変だなあとは思っているようだ。
要はルッタ、シーラがマーダ教の者だってことはわかったんだよな。それも、ルシーラットの名前を出してるってことは多分シーラがそうだと推測できたわけだ。
何をもってそう判断したのかは分からない。だけど、それならマーダ教の主神であるこの俺がその場にいたのに、まったく分かってなかったらしい。シーラの報告からすると、そういうことになる。
だからシーラに視線を向けると、彼女は「言いにくいのですが……」と一瞬口ごもって、それからその理由の推測について言葉をぽつり、ぽつりと呟いた。
「自分は、元々のルシーラットとしての能力をほぼ取り戻している、と思われます。しかし、コータ様は、その」
「あー」
そういうことかあ。ファルンやウサギ兄妹が軽く首を傾げているので、自分でぶっちゃけてやろう。
「俺は、サブラナ・マールによって力だの何だの、がっつり削られた後に残されたスッカスカの残り滓、だからな。しかも、外見これだし」
つまり、伝説のアルニムア・マーダみたいなえろえろ邪女神でもなければ男をうにゃむにゃして支配下に置くがっつりした魔力もない、というわけだ。これで実は邪神本体です、と看破できたらすげえわ。うん。
「ようするに、コータちゃまはアルニムア・マーダさまだったときよりちっちゃくてかわいいからわかんなかった、ですか?」
「そういうことですわね、きっと」
どういうことだミンミカ、ファルン。そういう要約で……あんまり間違っちゃいないか。たしかに、元の邪神よりはちっちゃくなってるし。
「……ぼくたち、みつかってもだいじょうぶでしょうか?」
「これは自分の推測だが、神官であるカーライルを看破できなかったのだ。一般信者を見抜けるとは思えない」
ちょっと不安げになったアムレクに、シーラはそう言い切ってみせる。
というか、俺のことわかんなかったルッタなんだから、そりゃ余計に分からないだろうさ。バレたら、速攻でとっ捕まえて吸う。そのくらいの努力はしないとな。
「確かに。多分、ルッタはシーラ以外も全員仲間だとは本当に分かってないだろう。で」
ちょっと強引に結論付けて、俺は仲間たちを見渡した。
「今後は、ルッタとその部下たちにも気をつけないといけないな。……その中にサングリアスもいるけど」
「連絡が取れればいいのですが」
サングリアスは、一応ルッタの部下ということになる。だけど、既に俺の下僕だから……やろうと思えばスパイやってもらえる、かもしれない。ファルンの言うように連絡取れれば、それも可能になる。
もっとも、うっかりサングリアスと連絡取った時点で、俺たちも怪しまれるだろうな。これは、向こうから来てくれるのを待つか。
「まあ、俺たちは何も知らずにファルンと一緒に修行の旅の最中、なんだろ。今までどおりでいいじゃん」
結局のところ、そういうことである。この俺の意見には、みんな「確かに」と頷いてくれた。
さて、どこまでルッタをだまくらかせるかな、俺たちは。




