198.夜に集うはふたつ鳥
「我はサブラナ・マール様の敵を廃する、教育部隊の長ルッタ。お前たち、何者だ」
シーラの声は、ルッタには届かなかったらしい。ふー、あぶね。
ともかく、彼女は凛とした声でそう名乗り、こちらに尋ねてくる。それに答えるのは……まあマール教の教会だし、ファルンの出番だよな。シーラは口ごもってしまったし、カーライルはうっかりしゃべらせると何か怖そうだし、俺は俺だし。
「わたくしは、修行のために世界を旅しておりますファルンと申します。後ろにいるのは、わたくしと共に修行している同行者ですわ」
「なるほど」
で、ファルンは普通に答えてくれた。一応そういうことでナーリアの村を出たんだから、間違ってはいないんだよね。なので、ルッタも納得してくれたらしい。
……しかし、シーラの目を信じるなら彼女が翼王アルタイラかよ。今の名前が『翼の姫』ルッタってことなら、今彼女はマール教の幹部、ってことだよな。おのれマール教、俺の配下に何してくれやがってるんだ。
まあ……レイダの前例もあることだし、吸ったら例の白いもやが出てくるんだろうけれど、ゼロ距離まで接近できる自信がねえや。
何というか、隙がないし。無造作に近づいたら多分、腰にはいてる剣でバッサリやられるかぐーでぶっ飛ばされるか、だな。
「この時間に、何をしている」
「マーダ教の力を封じたお部屋があると伺いまして。そう言ったお部屋を見る機会はなかなかないものですから、サヴィア殿に少々無茶を聞いていただいたんです」
「ほう」
ファルン、基本的に嘘はついてないところがさすがというか。俺が吹き込んだっていうこと以外、元々の僧侶ファルンのままだからルッタも、割とあっさり疑いは晴れてるようだ。
ここは、早めにおいとましよう。どうも状況が微妙に微妙だし、宿に帰って作戦会議したいところだ。
「すみません、宿に戻りたいのですがよろしいでしょうか?」
「ああ。引き止めて済まなかった、ゆっくり休んでくれ」
「ありがとうございます」
俺は何も言ってないけれど、ファルンも俺と考えとしては同じ方向性だったようだ。ルッタの許しを得たところで、カーライルの方に向き直る。
「カーライルさん、コータちゃんがおねむのようですからお願いしますね」
「分かりました。では」
「んっ」
ほい、と抱き上げられた。外見ロリっ子の俺が眠たがっている、という理由も重ねて、さっさと宿に帰ろうっていう魂胆だな。
よし、乗ってやる。軽く目をこすって、カーライルにしがみついてみせた。……いい加減に慣れてきたなあ、幼女のふり。
「それでは、失礼いたします」
「ええ。参りましょう、シーラさん」
「わかった」
とっとと帰りたい、と微妙に顔に出ているカーライルを先頭にファルン、そしてシーラがサヴィアの案内で外に出ようとした、ところで。
「……いや。お前は少し待て」
ルッタの声が響いた。どうやら、止められたのはシーラのようだ。え、マジか。
「何か?」
「同じ鳥人と会うのは久方ぶりでな。少々話がある」
「……承りましょう」
その理由、本当かあ? 実はさっきの声、聞こえてたとか言うんじゃないだろうな、あんた。
とはいえ、シーラがOK出してしまったもんはしょうがないやな。俺たちは先に帰ったほうがいいんだろうか、これは。
「ルッタ様」
「案ずるな。サヴィア、ジオレッタ、人払いを頼む」
「は、はい。ジオレッタ、そちらの方々を外までお送りして、その後は外の見張りを」
「承知しました。皆様はこちらへ」
ああ、サクサク話が進んでやがる。つか、二人っきりで話ししたいわけか、ルッタ。
さて、どんな話なんだろうな。
「ファルン殿、同行者をお借りする」
「お貸し致しますので、きちんとご返却願いますわ」
「善処する」
え、ちゃんと返すんじゃないのかよ。善処かよ、と思ったがまあ、戦闘にでもなればそれどころじゃないしな……物騒な思考回路になった気がするな、俺。
「シーラお姉ちゃん!」
「先に宿へお戻りください。すぐに自分も参りますので」
思わずロリっ子モードで声をかけた俺に、シーラは大きく頷いてみせた。ちゃんと帰ってこいよ、でないと俺、
衝撃波でどのくらい破壊力出せるか、試したくなっちゃうだろ。