196.祠で何があったやら
「あ」
周囲を見渡していたファルンが、俺たちから一番遠い方に視線を向けた瞬間声を上げた。
「どうした? ファルン」
「すみません、ちょっと」
小走りに向かっていくそちらの方に視線をやる。明かりがどうにか届いたそこには、人が倒れているようだ。ここからじゃ、性別も年齢も分かりにくいな……多分、男だと思うけど。何となく。
「……駄目、ですね」
がっくりと肩を落とすファルンの側へ、皆で行ってみる。彼女の腕の中で事切れていたのは、やっぱり男の人だった。四十代くらいかな、ひどくがりがりにやせていて……あ、もしかしてここに閉じ込められて餓死か。
えげつないぞ、マール教だか領主一族だか知らないけど。ただ、この隅っこに寄っていたってことは、多分。
「マーダ教信者……じゃ、なさそうだな」
「外見で判断するのは無理がありますが、まあ……魔法陣から離れようとしていますからね」
「こっちの信者なら、中に入ってきそうだし」
カーライルの判断を、俺の考えの裏付けとする。マーダ教の魔法陣なんだから、マール教の信者なら嫌がって離れるだろう。うちの信者なら、喜んでいそいそと真ん中に入るだろうけどさ。
この人は、陣から離れようと動いていた。よく見ると、地面に身体を引きずった跡がついている。うっすらホコリが積もっていて、そこだけ擦れているからな。
「彼だけではないようです」
「ん?」
シーラが、部屋の隅をぐるっと見渡しながらそんなことを言う。視線を追ってみると……あー、骨だ。割と最近ぽいものから、ぼろぼろの古そうなやつまでこう、いろいろと。
数は多くないけれど、もしかしたら定期的にやってたとかいうか。……ふざけんな、ひとんちだぞ一応。
「……ファルン」
「はい」
隅っこに寄っている骨たちは、最初の一人同様マール教だろう。だから、俺はファルンに頼むことにした。
「こいつのため、というかここで死んだ奴らのために祈ってやってくれないか。さすがにほっとけないけどさ、マール教なら俺たちが祈るのは違うだろ」
「分かりましたわ。コータ様がそうおっしゃるのであれば」
ファルンは、俺の気持ちをわかってくれたのかすぐに頷いてくれた。それは、他の二人も同じことで。
「私では、おかしいですからね」
「さすがに放ってはおけませんが、彼らも自分たちに祈られたくはないでしょう」
カーライルも、シーラも俺の方だから、この人たちとは合わない。だからファルン、頼む。
つーか、アルタイラの力とか何もねーじゃんかよ! そこまでマーダ教信者とか引きずり込むための罠かよ、ふっざけんなあああ!