192.表向きは穏やかな街
さて、あまり時間を食っても何だしな。
一つだけ聞いて、終わりにさせてもらおう。
「あの地下……祠には、何がある」
「翼王アルタイラの力の一環が封じられている、とも聞きますが詳しい話は不明です。申し訳ありません」
「アルタイラ、様」
さすがに何の祠だか、ジオレッタも詳しくは知らないようだ。サヴィアならもうちょっと知ってるかもしれないけれど、いずれにしろこっち側の力があるっぽい、ということだな。
それより、翼王アルタイラの名前でシーラがしっかり反応したな。そりゃそうだ、四天王の一人だもの。そして。
「シーラの上役、だったよな」
「はい」
軽く唇を噛むシーラの表情に、何かやるせない気分になった。
しかしまあ、まだ復活していないはずのアルタイラの力があるのなら、何かのヒントになるかもしれない。これは、また来たほうがいいな、うん。
「わかった。そのうち来ることもあるだろうから、俺たちが来たら危険がないように配慮しろ。いいな」
「仰せのままに」
ジオレッタに指示した後、俺たちは「そろそろ出ましょう、お姉ちゃん」「分かりましたわ、コータちゃん」とごく普通の僧侶ご一行様に変わった。いや、もともと普通のご一行様だよ、多分。
「お疲れ様でした。ジオレッタ、あちらの見学の方々を案内してちょうだい」
「分かりました。行ってまいります」
部屋を出た途端、恐らくは普段どおりであろうサヴィアの指示がジオレッタに飛んだ。いつもこんな感じなんだろうな、当たり前って感じでジオレッタも走っていったから。
「良いものを見せていただき、ありがとうございました」
「いえ。サヴィッスの街においでになりましたなら、ここは外せませんもの」
「そうですわね」
ファルンとサヴィア、しれっと会話してるけど両方共俺の下僕なんだよな。もっとも、それなりに自分の意志はちゃんとあるようだからいいけどさ。
……俺が邪神だってバレなきゃ、ほんとにそれでいいんだけど。
「この祠と、それを封じた我らが神の御威光があればこその、サヴィッスの街ですから」
「すごいですね!」
あんまり意味も分かっていないだろう、ミンミカの言葉にサヴィアは顔をひきつらせながら笑う。獣人だからだな、まったく。
だいたい、祠があるからこそのサヴィッスの街ってことはだ。逆に言うと祠がなきゃ何もない、とも言えるんだけどな。食料は輸入してるし水も大変だし。
だから、人口も少しずつ減ってるらしいし。街の外に逃げ出す人とか、街の外にぶら下がる人とかで。
「皆様。ぜひまた、おいでくださいませ。いつでも、教会は皆様を歓迎しております」
「ええ。ぜひ、また」
そんなことを知った今となっては、カーライルも本当に作り笑いと分かる表情で挨拶をするしかなかった。