191.好みじゃないこの街
ずるずると床にへたり込むジオレッタから離れ、一息ついた。サヴィアと二人分で、結構精気を補充できた気がする。
ぼんやりと俺を見ながら耳をぴるん、ぴるんと震わせているジオレッタに、そっと尋ねてみた。
「ごちそうさまでした。大丈夫か?」
「……はい、大丈夫です」
「そっか」
なんとなく、懐いた子犬みたいな顔しながら頷いてくれたのでホッとした。うんまあ犬獣人だからな、間違いないだろ。
そんな事を考えているところへファルンが進み出てきたので、尋問は彼女に任せるとするか。
「では、先ほどのお話、お聞かせ願えますか?」
「街の外部の『飾り』、とサヴィア様の一族がお呼びしているもののことですね。はい」
今度はすんなり頷いてくれたけれど、それはそれとして室内の温度が一気に下がった、気がする。
そっかー、あれ飾りなんだー。脳内でだけだけど、思いっきり棒読みで言ってしまった。
領主一族にとっては、支配の象徴の飾りなんだろうね。うわあ、いやだいやだ。
「あれらのほとんどは、領主一族に反感を持っていたり対立していた者たちです。中にはもちろん、マーダ教信者もいたかもしれません。ですが、そういうことであったとして彼らは『飾り』とされました」
あ、やっぱりそっちか。ったく、何でもかんでもこっちに押し付けてくるんじゃねえよ。
善良なマール教信者に失礼だろうが、お前ら。まったくもう。
「ガチで一族独裁都市、みたいなもんか。マール教を後ろ盾にして」
「はい。ですから、ほとんどの住民は本気であるにしろないにしろ、領主一族を崇拝しております。ご息女であるサヴィア様が僧侶の地位にありますので、余計に」
「ふむ」
カーライルがすっごく難しい顔になった。もしかして、こいつの故郷もそんな感じだったのかな。マーダ教信者である身内の中から裏切り者が出て、一族全滅だし。……残ってる連中は、ここの住民みたいにマール教バンザイ、とかか。残ってたら、の話だけど。
「マール教側は、何も言わないのだな」
「領主一族より多大なる献金がされている、と聞いております。また、対立勢力の女を貢ぐこともあると」
「……やっぱそれか」
シーラのひとりごと、とも思える呟きにも、ジオレッタは素直に答えてくれた。やっぱりベタにそこ行くか、お前ら。
というか、自分ちの娘を差し出す……てのは回数使えないし。
「たしかに、一人娘だったりすると教主以外の男に貢ぐってのはないか」
「領主などの娘は基本的には家にいるか、もしくはマール教の僧侶として修行に励むのが一般的ですわ」
「僧侶にうっかり手を出すとマール教が怖いし、だからか」
ファルンの説明に納得して、それで出てくるのはため息ばかり。
だから、対立している勢力をマーダ教とみなして排斥。そこに含まれる女性を賄賂なり商売道具なりとして貢ぐ、と。
それで黙るマール教もアレなんだけど、観光都市ってことだしなあ。最悪切り捨てても、まあなんとかなるだろうとは思ってるんじゃないかな。
例えば農村が潰れたら上納される食料が減るわけだけど、サヴィッスはそうではなくよそから輸入してるわけだ。その取り分がなくなるんで、むしろ自分たちのところに来る分が増える可能性だってあるし。
ま、そんな簡単な話じゃないとは思うけどな。
それにしても、女を貢ぐ、か。
「……男女逆だと、マーダ教もやってたんだろうな」
「否定はしません」
シーラがあっさり頷いた。やっぱりやってたのか、俺。
だよねー……というか、昔の俺、アルニムア・マーダが男を引っ張り込みまくってたから、張り合ってサブラナ・マールが女を引っ張り込んだってことみたいだし。
……なんというかこの世界の人類その他、ごめん。やっぱ悪いの俺だわ。




