189.物言いが好みじゃない
「ごちそうさまでした」
「あは、はっ、おそまつさま、でした」
えらくぴりぴりする味の精気をそこそこ吸って、代わりに俺の気を吹き込む。そうしてやってから解放すると、僧侶さんはだらしなく床にべたんと座り込んだまま答えた。
「お前の主は今からこの俺、コータだ。わかったな」
「はい、ご主人様あ。このサヴィア、ご主人様の下僕としてお仕えいたしますう」
ふーん、サヴィアっていうのか。この街サヴィッスって名前だったはずだけど、何かゆかりでもあるのかね。
なんてことを考えていると、そのサヴィアが足元までにじり寄ってきた。こっちは外見ロリっ子なのに、その男に媚びるようなどろんとした目はどうかと思うぞ。てか、僧侶がそれって大丈夫か、こいつ。
「ご主人様。ジオレッタも下僕になさいます、よね?」
「ジオレッタ?」
「わたくしの同僚の僧侶ですわ。か、かわいらしい犬っころですのよ」
犬っころ。そうか、獣人の僧侶さん、犬獣人なのか。しっぽ短い種類なんだな、なるほど。
「もちろん、そのつもりだ」
「良かったですわあ。わたくしだけしていただくなんてそんなこと、不公平ですもの」
俺が頷くと、サヴィアはとっても嬉しそうに笑って足にすりすり。あ、へんたいだったらしい、このひと。
しかし、どうも言葉の使い方が良くないな。一応突っ込んでおくか。
「ただ、同僚の僧侶を犬っころと呼ぶのはどうかな。獣人も等しく、お前たちの神の加護を受けているんだろ?」
「犬など、犬っころでかまいませんわあ」
「……ふうん」
断言しやがった。獣人とか差別してる系か、そりゃまあいるだろうけどさ。
しかしこいつ、目の前にいる俺の角に気づいていないわけでもなかろうに。アムレクとミンミカ、そして鳥人であるシーラもいるっていうのにな。
「かんでいいですか、コータちゃま」
「コータちゃま、ぼくもこいつ、ひっかいていいですか」
「アムレク、ミンミカ、落ち着け。シーラも、殺気を抑えろ」
「は。失礼いたしました」
案の定、当の三人は怒ってる。シーラなんか、既に剣の柄に手がかかってるしな。
でもまあ、昼間から僧侶相手に刃傷沙汰はまずい。めっちゃまずい。
外にはこいつの同僚さんのえーと、ジオレッタもいるし、多分他の観光客とかも来てる。そこで僧侶斬ったらとてつもなくまずすぎるんだって。
「今しばき倒したら、俺たちが怪しい連中だってバレちまうだろうが」
「……そう、ですね」
おずおずと、シーラが剣から手を離す。うん、それでひとまずは大丈夫だと思う。ウサギ兄妹も、引っ掻いたり噛んだりしたい気持ちはわかるけどな。
「ですが、このまま放っておきますの?」
「今はな」
ファルンが首を傾げながら、サヴィアをものすごーく白い目で見下ろしている。うわあ、仕草だけ見りゃ可愛いのに視線がえげつない。それに気づかず俺の足元でえ、え、と不思議そうにキョロキョロしているサヴィアも大概だけどな。
いやもう、引っ掻いたり噛んだり斬ったりするだけじゃ収まらないわ。ちょっと、エグいやり口を考えてやろう。
「俺たちが街を出るまでは、普通の僧侶として働け。その後の指示は、出るときに与えてやる」
「はい、ありがとうございます」
なので、ひとまずは今のままでいてもらうことにする。どうせ俺の正体がバレるにしても、少しでも時間を稼いでおきたいし。
「……いかがなさるおつもりですか」
「痛い目を見てもらうのと、時間稼ぎをできる方法を考えるさ」
「承知しました」
カーライルにひそりとささやくと、彼は納得した様子で表情を崩した。ついでに足元にいたサヴィアを俺から引き離すのを忘れずに、ずるずると。