018.ゆっくり山を下りつつ
スラントの町までは、大人の足で大体一日ほどらしい。山道を下っていくので途中で一泊することも多く、途中にはそのための宿屋兼一日で隣町につく人のための休憩所も存在するとか。基本的に、泊まり客は村まで物売りにいく商人さんとからしいけど。
で、俺たち一行は何しろ俺が外見ロリだしファルンも普通の女性だし、ということでその宿に泊まる予定で少しゆっくりめに動くことにしている。
「コータ様、ご気分がすぐれないようでしたらおっしゃってくださいね」
「大丈夫だよ、カーライル。いい眺めだし」
「それは良かったです」
俺はカーライルに肩車してもらって、のんびりしたもんである。
さすがにろりぺたじゃあ、後頭部にしがみついても大したこともなかろうし。歩かなくてもいいから楽だし、これはある意味幼女特権だな。さっきからしっぽが無意識にカーライルの背中、じゃなくて背負ってる荷物叩いてるのはまあ、ごきげんなんだよ察しろ。
なお、それぞれ荷物を背負ってるわけなんだが俺だけ手ぶら、というか。コータ様に荷物持たせるわけにはいきません、と三人にハモられた俺の身になってくれ。俺自身ですら荷物なのに。
「スラントには獣人族もいくらか住まっておりますので、ナーリアよりはコータ様も目立たなくてよろしいかと」
「教会のそばの食堂、美味しいですよー」
まあそれはともかく。
俺たちの後ろを守ってくれているシーラと、先頭に立って道案内を兼ねてくれているファルンがそれぞれに教えてくれる。二人とも地味に楽しそうな顔してるのは、旅が楽しいのかな。ナーリアの村じゃあ、少なくともシーラは息苦しかっただろう。
てかそうか、ファルンも外からナーリアの村に入ったんだろうし、途中のスラントで飯とか食ってるよな。なるほど。
「カーライルも、スラントには寄ったんだろ?」
「はい、普通の旅人を装って入りました。そこからは山の中を進んでいったので、今夜泊まる宿には入っていませんが」
「……俺の信者も大変だな」
カーライルは世界で言うところの邪神の信者で、スラントの町にやってきたのはその奥にある禁足地、そこにいる俺を解放するためだった。
それは今の世界にとってはとても許せないこと。だから万が一のことを考えて、カーライルはナーリアやその前にある宿には泊まっていなかった、わけだ。
それにしても、その状況でファルンとシーラ、よく見つけられたな。
「カーライルのこと、ファルンはどこから聞いたんだ?」
「山で薪を取っていた村人からですね。禁足地に人が入った痕跡がある、とわたくしのところに申し出がありました」
「そこか」
なるほど。
人が入った痕跡って、足跡とか草をかき分けた跡とかかな。頻繁に山に入るんなら、そういった変化に目ざとくてもおかしくないだろうし。
それでファルンにご注進が行って、シーラと一緒にやってきて、以下略。
……あ、跡か。人影見たとかじゃない、ってことはそうか。
「ああ、カーライル自身は見られてないんだな」
「そうでなければ、彼を『生贄にされそうになったよそのお方』なんて呼べませんから」
「俺も、今後は気をつけなければいけませんね」
顔や、遠くからでも全体像見られてたら、少なくとも怪しまれる。あくまでも動いた痕跡だけが見つけられたために、カーライルという人物を追われることはなかった。
顔見たのはシーラとファルンだったから、何とかなったしな。
「コータ様が神であることだけは、知られてはなりません。俺たちであれば代わりは探せばいるかも知れませんが、コータ様には代わりの方はおられないのですから」
俺が落ちないように足首を掴んでくれているカーライルの手に、少しだけ力が入った。
でも、マール教は俺を殺すわけにはいかないはずだ。殺した途端、全盛期モードで復活する、らしいから。
「けど、連中は俺を殺さないだろ?」
「死なない程度にダメージを与えて、そのまま生かさず殺さずの状態で捕らえておくことはできましょう。もしくは、過去のように再び魂を外の世界に追放するか」
「うぐ」
シーラ、結構痛いところ突いてくるな。
つか、確かにどっちでも俺は嫌だな。生かさず殺さずだと、ずっと痛いとかそういうのだろうし。
「うん、それはいやだ。頑張って、正体バレないようにします」
「よろしくお願いしますね? コータ様」
にっこり笑ったファルンの顔が少しばかり怖くて、思わず激しく頷いた。
……バレないためにも、下僕は必要最小限。うん。