188.僧侶と封といただきます
「では、こちらへどうぞ」
むちむち僧侶さんに案内されて、奥の扉からさらに奥へと入る。僧侶さんの後ろにファルン、そこから適当に並んだもののしんがりはシーラがしっかり務めていた。ある意味癖かな。
「ここが『魔陣封印の間』でございます。あちらの扉から続く階段を降りますと、マーダ教神官がおぞましい儀式を行おうとした『魔陣の祠』に入ることができます」
扉の向こう、そう言われて案内された部屋は微妙に薄暗くて、思いっきり悪魔封じてますよーみたいな雰囲気の部屋だった。
祠に通じているらしい扉の両脇には天使っぽい、多分勇者とその仲間だろう彫像が狛犬みたいに建てられている。アレが一応封印、のつもりなんだろうか。地味に変な空気ダダ漏れしてるんだけど。
あと、勇者っぽい彫像は子供だった。俺の今の外見よりは少し大きいけれど、多分十代前半くらいの女の子。
……えーと、勇者ってアレだよな? おい待ててめえら、それはやばいんじゃないのか。多分人のこと言えないんだけど。外見が幼いだけの、それなりの年齢であったことにしよう。うん。
「そうりょさま。どうして、わるいものをふういんしたほこらにはいれるんですか? ふつう、はいれないようにしないですか?」
おおミンミカ、ナイス質問。
というか、確かにその理由は知りたいな。マーダ教信者を釣るための罠、ってだけじゃ開けとく理由にはならないし。
「そうですね。マーダ教の力ということであれば、マール教には害なのでは」
「そのとおりですね」
フォローの意味でか、シーラも言葉を続けた。僧侶さんはゆったりと頷いて、その答えを紡いでくる。
「マーダ教の邪悪な力の名残は、マール教にとっては害となる力です。ですが、それが修行の一環ともなります。邪悪な力に耐え得る心を持ち、我らが神に身を委ねてこそ僧侶は高みに登ることができるのですよ」
おーおー、邪悪な力の根源で悪かったなこんちくしょう。心の中だけで吠えたから、僧侶さんには聞こえてないだろうけどさ。
あと、我らが神に身を委ねてってぶっちゃけかっこ物理かっことじる、とか後ろにつくんだろうが。
「なるほど。あえて逆境に身を置く、という行なのですね」
「はい」
一応、感心したようにカーライルがまとめてみた。あ、でもなんとなくムカついてるぞ、こいつ。
その行の結果が、埋もれた街の上に作られた街と、一人になった自分ってことなんだろうから。
ま、それは置いといて、だ。
「すごいですね。……シーラ」
「はい」
「んっ」
名前を呼んだだけで、シーラは俺の意図を汲み取ってくれる。するりと踏み出してきて、僧侶さんの口元を手で塞いだ。もう片方の手で僧侶さんの手首を掴み、背中側にくいっと。
「あえて逆境に身を置く、かあ」
「んんんっ!?」
「なんで、マールきょうってめんどくさいぎょうとかするのかな。ぼく、わかりません」
ニコニコ笑って見せながら、僧侶さんの前に回る。空気を読まないアムレクのセリフ、まあ俺も同感だ。
めんどくさい行というか、結局のところは教主と一晩試合なんだろうにさ。
「それじゃ、頑張って修行してくれ。いただきます」
「んぁ、なにっふうん!?」
ひとまず、こっちの僧侶さんは状況把握できないうちに吸って吹き込もう。そのほうが俺たちのためでも、彼女のためでもあるからな。




