187.祠と封と教会と
何とかベングラに疑われることなく、俺たちは一晩を過ごした。さすがにコングラの兄貴でも、吹き込むのは勘弁してほしいからな。
吹き込まなければ多分、俺たちは通報されるわけで。そうなるとこの先面倒に……うん、いつかは面倒になるんだけど、できれば遅いほうがいいもんな。
そして翌日、のんびり朝ご飯を食べた後、俺たち一行は予定通りにサヴィッスの教会へやってきた。多分街の中央部、と思われる場所にあって、周辺の広場では観光客が屋台で食いもん食ったり教会出入りしたりしてる。
で、俺たちは修行旅行組ということで、玄関すぐの広い部屋ではなくその奥にある接客室に通された。常駐の僧侶二人だけが教会にいて、そのうち一人が書類関係をさっさと手続きしてくれてる。
「はい。ファルン殿と御一行、確認いたしました」
「ありがとうございます。牛車の方々は別行動ですが、大丈夫ですか?」
「ジランド殿とコングラ殿でしたら、昨日の入場を確認しておりますから大丈夫です。ご安心を」
ファルンの質問に、多分三十代くらいのむちっとした僧侶さんが答えてくれる。世界が世界なら人妻なんだろうけど、この世界だからなあ。もしかしたら、教主の手くらいはついてるかもな。
ちなみに表で観光客を案内している相方さんは二十になるかならないか、って感じのスレンダーボディだった。お尻に小さなしっぽがあったから、獣人なのは間違いない。しかしあれだけ短いしっぽだと、何の獣人なんだろうな? ま、いいか。
で、目の前にいるむちむち僧侶さんが「さて」と一言口にして俺たちを見渡した。
「僧侶御一行ということですので、特別に奥の間に入ることができますが、いかが致しますか?」
「奥の間?」
「かつて勇者メイヒャーディナルとその一行が邪神の神官を滅ぼした、伝説の祠へと続く間です。現在はサブラナ・マール様のご威光により祠は地下深くに沈み、そこへの通路が現れているだけですが」
あれま。
確かに俺たち、メイヒャーディナルの峠に向かってる最中だけどさ。その名前の由来になった勇者メイヒャーディナル、そいつここでもやらかしてたのかよ。
……進軍の途中でこっちの神官見つけたんで、叩き潰していったとかそういうことかね。俺がその立場ならやるか、確かに。
と、アムレクがはい、と手を上げた。
「ふつうのかんこうにきたひとは、はいれないんですか?」
「僧侶とその同行者でなければ、入室できない決まりになっております。それ以外の方は、時間を決めて部屋の外から見学することになっておりますが、入室者がいる場合は開放されません」
「厳しいんですね」
「ええ」
決まりとやらを聞いて、カーライルが軽く目を見張った。それが当然、というように僧侶さんが頷いたところを見ると、多分何らかの問題があるんだろう。
……あれかな、マーダ教の力が未だに残ってるから、近づいて影響されたら問題だとか。もしくは、フリーで入れたりしたら俺の信者が地下に突入するとか、その辺り。
当の邪神がその目の前まで来てる、ってことに気づかれていないのは何というか、お間抜け?
「まあ。ぜひ、勇者メイヒャーディナルの功績を拝見したいものですわ。皆さんも、よろしいですわよね?」
「自分も是非、拝見したいと思います」
ファルンの確認とも言える問いに、しれっと笑顔で答えられる辺りシーラはさすがだよな、と思う。カーライルも「ありがたいことです」とにこやかに続く。こうでないと、マーダ教信者はやってられないってことかね。
「ミンミカも、みたいです!」
「ぼくもぜひ。コータちゃま、いいですよね?」
「はい、もちろん」
例によって脳天気なウサギ兄妹、その兄に聞かれて俺も、にっこり笑って頷いた。
「承知しました。では、少々お待ちください」
俺たち全員が見る気になったのを確認して、僧侶さんは扉から表に顔を出した。ああ、俺たちが見ているときは外から見られないようにするんだっけな。