186.神と仲間の明日の事情
「ま、それはそれとして」
ほどほどで、話を切り上げることにする。
一応部屋の中だし大丈夫だと思うけれど、さっきまでの話で分かる通りこの宿の支配人はガッチガチのマール教信者だ。コングラのお兄さんということは置いといて、そういう人のいる宿であんまりこちら側の話を続けるのも何だしな。
「明日の予定、教会でいいよな?」
「はい、コータ様。そちらの二人は買い物などがあると思うので、別行動になっても構いませんか?」
一応カーライルに確認してみると、ちゃんと頷いてくれた。もっとも、街に到着したら早い目に教会に行くのはもう恒例になっているから、特に問題ないんだけど。
で、そちらの二人ってのはもちろん、ジランドとコングラのことだ。ボロニアはどうするんだろう、という疑問はまず置いておく。
「あ、はい。それは助かるんですが」
「大丈夫なんすか?」
で、牛車組はやっぱり買い物するつもりだったらしい。道中で使うものとか食い物とかが必要だから、こいつらも街ごとに買い物はするわけで当然といえば当然か。
で、ボロニアは……そういや部下どーした、お前。
「アタシは、部下連れて皆とは別で観光しますよ。もしかしたら、アタシらの被害者が街にいるかも知れないし……そしたら、コータ様に迷惑かかりますから」
「そういえば、部下たちは?」
「別の宿です。ここにもアジトみたいのはあるんですが、どうも狭っ苦しくてアタシだけ別に泊まったりしてたんですよ」
「なるほど」
説明ありがとう。狭っ苦しいって面積なのか、それともこのサヴィッスの街自体の空気か。
どっちみち、俺たちにはしんどい街だってことなのか。……話を戻そう。
「話を戻す。ファルンとその同行者である自分たちは、教会は街についたら一度は行く場所だ。マーダ教信者とでもバレない限り、特に問題はない」
「じめんのしたにはいるのがあやしい、ってことだったらぼくたち、ひとのまえではいったりしないです」
シーラが方向性を戻してくれて、それにアムレクが続く。
そういうことだ。ファルンがマール教の修行で旅をしているという建前上、教会に行くのは何の問題もないんだよな。まだ、バレてないし。多分。
「第一、地下に入る用事があるかどうかも分かりませんからね。仮に入るとしても、罠があると分かってて即突入はあり得ません」
「そうですわね。普通に手続きをして内部見学をして、それからですわ」
カーライルの言ったとおり、地下に俺を祀る祠があるからって俺が行く用事があるとは限らないし。まあ、案外見物くらいはできるのかもしれないけれど、その場合マール教が何かやらかしたってことになるからなあ。昔の街をまるごと埋めちゃった、以外に。
ファルンはウサギ兄妹とは別方向にマイペースだけど、それが良いことではある。結局、俺たちが明日やることはそのくらいだからだ。……隙を見て僧侶二人に吹き込めたらそれが一番いいんだけど、さて。
「無理せんでくださいよ。コータ様が世界にお戻りになっておられる、それがマーダ教にとっては希望なんですから」
「記憶も力もないけどな」
ジランドが、ふっとそんなふうに言ってくれた。そっか、お前さんたち信者にとっちゃ、神様である俺は希望か。
そんな偉そうなもんじゃないし、未だにろくすっぽ何もできてないし、あと周囲敵ばっかりだけどさ。
「ジランドたちも、ボロニアも、無理はするな」
「そうします。コングラ、お前もな」
「もちろんっす」
「アタシだって、コータ様に迷惑はかけませんよ。当然のことですから」
なんてーかさ。
ついこないだ会ったばかりのこの三人が、当たり前のように俺に頭を下げてくれるのって、俺が神様だったからだよな。
神様として、ちょっとはしっかりしないと、駄目だよな。うん。




