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184.昔の兄と弟と

「……うちは、もともとはマーダ教の家系っす」


 案内された二間続きの客室で、ベングラが去ったのを見計らってコングラがぽつり、ぽつりと話し始めた。荷物はここの宿の使用人さんが運んでくれて、今は部屋の隅に並べてある。


「ただ、ご時世がご時世なんで表向きはマール教をやってます。これは、大体のマーダ教信者もそうだと思うんすが」

「ミンミカたちも、おうちのおくのおくでだけアルニムア・マーダさまにおいのりしてました」

「そとにでたら、サブラナ・マールさまをおがみなさい、とはいっぱいいわれました」


 コングラの言葉には、多分一般的なマーダ教信者であろうミンミカとアムレクが答えた。やっぱり、表向きサブラナ・マールを拝んでるのが基本なんだな。間違っても拝みたくねー、なんていうのがテロぶっこいたりしてるわけだけど。

 拝まれてる神様としては、あんまり暴れまわってほしくねえんだけどなあ。俺が命じたわけでもないし、だいたい暴れたところでこちらの立場がどんどん悪くなる一方なわけだし。


「でも、兄ちゃんはガチのマール教信者なんす。熱心にマール教の教会に通って、教えの書をしっかり読み込んで」

「親がマーダ教だとわかっていて、それは珍しいな。いないとは言わないが、親としても受け入れがたいんじゃないのか」


 なるほど。ベングラさんはガチなのか、そりゃ大変だったろうなあ。カーライルのセリフ、こいつは身内から裏切り者が出たっていうから……何というかこう、な。

 ……息子がマール教信者の場合、親がマーダ教なのはやばいんじゃないか、と思ったんだが。


「両親がマーダ教を信仰してるのは知ってたんすが、それを通報することだけはしませんでした。育ててくれた親だからっつって」


 ああ、そりゃ良かった。ん、マール教側にしてみたらそれも裏切り行為とか、そうなるのかな。

 ……絶対言わないようにするか、うん。ベングラさんにもだけど、コングラにも悪いし。


「ただ、俺にはきちんとマール教を信じるんだぞ、それがお前のためだからなって言ってた気がします。兄ちゃん、早くに家離れたんでその後は基本、手紙のやり取りだけだったんす」

「家がマーダ教だったから、居心地悪かったのかね?」

「それもあったかもしれませんね。あと、親の方もどう扱っていいか困ってたみたいっす」


 そらそうだ。ボロニアの言う通り、自分と違う神様……しかも今の認識じゃ邪神を拝んでる家なんて居心地悪いだろ。

 親御さんの方も、何で違う方向に行っちゃったんだろうって困ってただろうし。

 その間に入ってただろうコングラ、よく今の性格に育ったなあ。手紙でもやり取りがあったってことは、もともと仲悪くはないわけだし。


「で、父ちゃんも母ちゃんも相次いで亡くなったんで、俺も田舎から出てきたんすよ。その頃にはもう、兄ちゃんはどっぷりとマール教に浸かってました」

「で、田舎が同じだった俺んとこの助手になってもらいましてね。うちもコングラんとこと同じで、先祖代々マーダ教です」


 親を見送ったコングラを、ジランドが自分とこに引き取ったみたいな感じか。

 ん、ジランドも田舎が同じってことは、もしかして二人共マーダ教だってことベングラさんは、果たして。


「コングラさんが、今でもマーダ教信者だってことはベングラさんはご存知ですの?」

「……知らない、と思います。普段はちゃんと教会行ったりしてますし、確認取るわけにもねえ」

「そりゃそうか」


 ファルンに聞かれて、コングラは首を振った。あ、そうなんだ。

 てことはベングラさん、この二人はもうマール教に改心したとか思ってるのかな。確かに、どうなんだって尋ねるわけにもいかないし、確認はできないよな。

 大体、マール教の斡旋で修行中の僧侶一行を運ぶ仕事してるんだ。未だにマーダ教です、なんて考えたりしないか。


「ベングラには悪いが、隠れ蓑にさせてもらってます。ここに泊まれば、よそに行くよりはバレる率は低くなるだろうと思って」

「僧侶一行を泊めればその分の補助が出るそうだし、ベングラ殿にとっても悪い話ではあるまい」

「そうなんすよ。こっちとしても、別に僧侶さんたちに悪さするつもりはねえですし」


 ジランドの言い分も、シーラの言葉もわかる。

 コングラが言うように、僧侶一行に悪事を働くことがなければ特に問題は起きない、と思う。わざわざこちらがマーダ教だ、と教えるようなことはしない。面倒事が起きるだけだし、追われる身となるだけだ。

 だから、ベングラさんには何も知らないまま、このままでいてくれるといいかな、とはちょっとだけ思った。

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