181.神の力を示すモノ
「サヴィッスの街自体は、警備というか入場審査は結構ゆるいんです」
わたしでもほいほい出入りできるから、とボロニアは斜めになった牛車の座席で笑う。坂道を上り始めたから、みんな斜めなんだよな。
「ただし、捕まったらあとが怖いってのはそこらへんでやらかしてるんで、それでも入ってくるやつはかなり度胸がある、っていうか」
「やらかしてるって」
何か不思議なこと言うやつだな、と思いつつ尋ね返してみる。ファルンとカーライルは今ボロニアの言った内容に心当たりがあるらしく、少し難しい顔になっていた。
コングラも眉をひそめていたけれど、そのうち窓の外を指さした。とっても嫌そうに。
「もうすぐ見えるっすよ……あ、あった、あれなんかそっすね」
「え」
思わずコングラの指先に視線を移して、その先に見えたものが何か、一瞬俺には分からなかった。前の世界で見ることのなかったようなもんだから、そもそもそういう連想ができなかったんだろうな。
「……あれは」
小高い丘の上にあるサヴィッス。その丘を通っていく道の山側、枯れた木とか打ち込まれた杭とかに、ズタボロになってぶら下がっているのは……骸だったり、骨だったり、朽ち果てて衣服しか残っていなかったり。
「……マーダ教信者、か」
その中の一つが、俺の紋章をかたどった首飾りをぶら下げていたようだ。シーラはそれを見つけたようで、吐き捨てるようにそう呟いた。
ボロニアの「そうです」という短い答えの後に、コングラが説明を続けてくれた。
「教会の地下に閉じ込められて出てこられない、ってのはまだいいほうで。地下に入ろうとしてとっ捕まったり、街中でうっかり捕まったりするとああなる、ことがあるんす」
「見せしめか」
「そうですわね。これはサヴィッス特有の悪習だと伺っておりますわ」
「悪い習慣、だと分かっていてやっているのか」
「反対意見を申し上げた者が吊るされる、という噂もございますの」
ファルンの話を聞いてカーライル、すごーく嫌な顔になってる。もしかして、殺された家族もあんなことに……ああ、やめておこう。俺が聞いても仕方のないことだし、取り返しはつかない。
いくつかぶら下がっている中の一つに、ミンミカが反応した。
「ふぇっ、おにーちゃんっ」
「ミンミカ、だいじょうぶか?」
「ミンミカ、どうした……あ」
アムレクにしがみついて垂れ耳をぴるぴる震わせているミンミカ。彼女が見たものは、長い耳を風に揺らされながら吊られている、ウサギ獣人の姿だった。さすがに、知り合いかどうかは分からない……だろうな。顔見えないし。
「……ただ、こう言っちゃアレなんですけどコータ様も昔は似たようなことやっていた、って記録があるんすけど」
ここでコングラが、何か言ってきた。何、アルニムア・マーダもやったことがあるのか、あれ。
記録だけなら良かったんだけど、ここには生まれ変わってきた証人もいてな。ルシーラット、っていうんだが。
「その……実は自分、見たことがあります。アルタイラ様が、かつてのコータ様に害を為そうとした愚か者を多く吊っておりました」
「マジかー……」
彼女自身は、自分の直属の上司だったアルタイラの行為として見ていたようだ。しかしまあ、俺もやってたんだろう、と思う。
……そりゃそうだよな。そうでもなきゃ、いまさらマール教があんなことやるわけもないし、多分。
けど、あれでマーダ教信者がビビるかというと、逆なんだろうなあとは思う。怒って、余計にマール教への敵対心を募らせる。
「見せしめってやつの必要性は認めるけど、程度にもよるんだよな。今後はさすがに、ああいうのは控えたいな」
ついでに、サヴィッスの街も潰せりゃいいけど……それは、もうちょっとこちらの戦力が揃ってから、にしよう。うん。




