179.もうすぐ次の街に着く
ボートランの街を何の問題もなく出立して一日半、途中通過した森では盗賊も猛獣も襲ってくることなく俺たちを乗せた牛車はのんびりと進んでいる。
「そろそろサヴィッスですぜ、皆様方」
「はーい」
御者台にいるジランドの声に、爆睡していたはずの俺の背もたれ……じゃなくてミンミカがしっかり返事をした。さすがウサギ獣人、なんだかんだで敏感なのは間違いないな。
「サヴィッスの次のランブロードまでは大体三日半くらいの道のりなんですが、途中に大きい川があるんで天気によっちゃ足止め食らうかもしれません。一応聞いておきますね」
「よろしくおねがいします」
コングラは、こういう気遣いというか先回りというか、そういうのがうまい。こちらも先にそういうのを聞いておけば、次の街を出る前にある程度準備とかできるもんな。
でも、大きい川って言われても、橋くらいあるだろうに。
「かわだったら、はしがあるんじゃないですか?」
アムレクでも同じ疑問を持ったらしく、珍しく自分から尋ねていった。それに対して、ちゃんと答えてくれるコングラはありがたい存在だ。うん。
「あるんですが、もうそろそろココらへん雨季でして、上流とかで激しい雨になってると、かなり増水します。それに、魚人なんかでも流されたりすることがあるんすよ」
「ぎょじんさん、およげるのに?」
「水の流れが早すぎると、かなわないことがあるんです」
「確かに。自分は鳥人だが、暴風の中では飛べないこともあるからな」
首を傾げたミンミカに、コングラとそれからシーラが説明してくれた。
あー、それもそうだ。雨季が近いってのは前にも言ってたっけなあ。それに、風に、水に流されて身動き取れなくなる、どころか生命の危険だもんなあ。
「そりゃ、渡らないほうがいいな。天候については、しっかり調べておいてくれ」
「ご理解いただけて何よりっす。調査はこちらの仕事なんで、お任せを」
前の世界と違って人工衛星とか天気予報とかないんだけど、どうやって調べるんだろう。やっぱり、住民とかからの聞き込み、かな。
「で、サヴィッスの教会というのはどういうものなんだ?」
「街の真ん中にある高い塔がそうです。ただ、ありゃ塔というよりは櫓ですけど」
さて、カーライルは天候よりそちらのほうが気になっているらしく、コングラに質問をぶつけていた。まあ、こっちのほうが問題としては先だしな。
って、やぐら?
「櫓、なのですか?」
「へい」
カーライルとファルンが、まるで同じように目を丸くしている。多分、俺なんかも同じ顔してるんだと思うけど。
その意味を、これまたコングラが教えてくれた。多分、これまでの客にも説明したことがあるんだろう。めっちゃスムーズだからな、説明が。
「さっき言いましたでしょ、大きい川があるって。堤が破れると、サヴィッスの街まで川の水がやってくることがあるんす。街自体は高いところにあるんですが、周囲は土地低いんで道が塞がれるんすよ」
「なるほど。そりゃ、見張り用の櫓が必要だな」
「そういうことっす」
つまり、何かの問題で堤防が切れて洪水が来そう、ってのを櫓から監視するわけか。街は大丈夫でも、周囲の道に水がつくとなると牛車とか旅行者とか、通行者たちに害が及ぶから。