175.昔の街と今の街
「それで、コングラ」
「へい」
俺が名を呼ぶと、コングラは神妙な顔つきになった。まあ、俺がシリアスな声出したからってのもあるんだろうが。
「どこらへんにマーダ教信者がいそうか、ジランドは当たりつけてんじゃないのか?」
「さすがっすね。もちろん」
でも、俺がにいという感じで笑ってみせると肩をすくめて、がりがりと短い髪をかき回す。
資料だけいきなり持ってこられても、こちらとしてはだからどうしろってことだ。ジランドは以前からこっちで動いてんだからいろいろ知っているはずだし、ということは既にめぼしいところをチェック済みだろうさ。そのくらい、俺にでも分かるよ。
で、コングラはジランドからちゃんと話を聞いてたようで、その当たりの街を教えてくれた。
「次のサヴィッス。ここ、昔はマーダ教の祈りの街、って呼ばれてたらしいっす」
「祈りの街ねえ」
「今の僧侶のように、神官がいたのでしょうね」
カーライルが、感慨深げに呟いた。ああ、祈りってことならそりゃ、そうなるかもな。
街をマーダ教が統括してたんなら、神官が当然いただろうし。
でも、コングラが続けた言葉はその『祈りの街』の最期をあっさりと伝えるものだった。
「んで、先の戦のときにマール教の軍勢によって、綺麗さっぱり焼き払われまして。ほとんど更地になっちまった上に住民も全滅したらしく、その上にマール教の街を建て直したんだそうっす」
「うわあ……ひどいですね、マールきょう」
「それで、いまはマールきょうのまちなんですね……」
露骨にアムレクが顔をしかめ、ミンミカのもともとたれてる耳がもっとへにょん、となる。ウサギ獣人としても、住処が焼き払われるってのは結構エグい状況だよなあ。草食の獣人にとっちゃ、かなり致命的だし。
「上に、ということは地下にでも残っている、というわけかな」
「お言葉の通りで」
シーラがふと気づいたように指摘する。ああ、そっか。地下に穴掘ってたらそっちは残ってる、って可能性はあるしどうやらそのとおりだったらしいし。
ただ、何かが残っててもその中に人がいた場合は、多分、うん。
「祈りの祠が残ってる、って話は聞きます。確認取れてねえんすが」
「確認が取れてない?」
「場所がちょっとね。教会の地下、なんですわ」
「なるほど」
コングラの説明に、俺も含めて全員がすごく納得した。
要はこれ、マーダ教の信者への罠みたいなもんだ。
マーダ教の拠点を潰して、その上にマール教の教会を建てる。マーダ教の信者は下手に近寄れないし、こっそりやってきたらマール教がとっ捕まえる、と。
しかし、教会ならちょうどいいや。
「サヴィッスの教会って、常駐の僧侶は何人だ?」
「二人っす」
「二人ですわ」
俺の質問には、コングラとファルンから同時に答えが返ってきた。てことは、これで間違いないようだな。
非常駐、例えば何かの用事でやってきた僧侶が一時的に滞在してる可能性はあるけれど、まずは常駐の二人を狙えばいい、というわけか。
その、俺の思惑に気づいたのはシーラだった。フフ、と小さく笑ってから
「……ああ、そういうことですね。コータ様」
「そういうこと。……あ、後でここの教会にもご挨拶に行っとくか」
「案内するっすよ。顔なじみですし」
さて、コングラは気づいているのかいないのか。それでも、ここの教会には何の問題もなく行けそうだ。