174.行動範囲にお手入れよ
ジランドが言ってたとおり、俺たちにはきちんとした部屋が二つ用意されていた。男女それぞれ分かれて入り、荷物を置いたらベッドに転がる。スプリングのないベッドだから、ダイビングしても面白くないんだよなあ。
「ごめんくださーい」
ふうと一息ついたところで、ここんこん、とノックの音がした。シーラが足音をさせずに扉に近づき、そのまま開く。
やってきたのはコングラだった。さっきの声もそうだったし、シーラも扉越しに気配を探っていたようだから、大丈夫だろとは思ってたけど。
「親方から言われて、資料持ってきたっす」
「資料? ……シーラ、カーライルとアムレク呼んでくれ」
「はい」
親方ってことは、ジランドが何か俺たちのためになるようなものをコングラに託してくれたってことか。
男連中も呼んで、全員で見てみることにしよう。カーライルは神官だからそれなりに詳しいだろうし、アムレクだけほっとくのもアレだし。
「この近辺、実はマーダ教信者が多いんすよ。教育部隊がうろうろしてるのも、それでなんす」
「ボロニア殿たちを狙っていたところに、我々がちょうどやってきたとそういうわけか」
コングラの説明に、カーライルが顎を撫でながらふむとひとつ頷く。渡された数枚の紙をぱらぱらとめくって、眉間にシワを寄せた。
美形だとそんな表情でもかっこいいのな、中身残念だけど。
「メイメイデイ、サヴィッス、クルンゴサ郊外……メイメイデイが多いな」
「街の名前ですの?」
ファルンが言ったように、今カーライルが口にしたのは街の名前だ。メイメイデイなんて、出てきたところじゃねえか。
で、その街のリストって何だろう、と皆の視線がコングラに集まった。彼はにい、と黄色っぽい歯をむき出して笑いながら、説明をしてくれる。
「これまでに教育部隊の『お手入れ』があった場所のリストっすね。街から外れた場所の場合は、近くにある街の名前を載せてあるっす」
「教育部隊……サングリアスの部隊か」
「あれ、ほんの一部っすけどね」
シーラの言葉に、コングラは軽く指を振って答える。
ま、そうだよなあ。何か第十五とか言ってたし、それだけマーダ教信者を探す部隊は多いってことだろう。
「『お手入れ』……ああ。つまり、今までにマーダ教信者が摘発された場所ってことか」
「そっす」
「てきはつって、つかまったってことですか」
「そういうことですわ。ミンミカさん」
カーライル、さすがにこういうことはすぐ分かったようだ。それとファルン、ミンミカに教えるなら確かにそれで解釈としては間違ってないけど、うーん。
つか、摘発された場所のみのリスト、なわけか。つまり。
「『お手入れ』のなかった街にはまだ隠れているかもしれませんし、あったところにはそれなりに理由があったりもしますんで、戻ってきてる可能性があるっす」
コングラの言う通りなわけだ。うまく隠れてるやつ、逃げたけど戻ってきてるやつ、そういう連中が見つかれば俺の配下として使えるかもしれない、と。
ところで、お手入れされた理由ってどんなんだろう……と思って、ふと思い出した。メイメイデイの名前、メイデリアからだったよな。
「理由ってーと、メイメイデイの名前の由来とかそこら辺か」
「そっすね。あと、昔のコータ様が七日七晩楽しまれた宴の跡とか」
「……」
「コータちゃまー、だいじょうぶですかー」
そんなことやってたのか、昔の俺。頭を抱えてもいいよな? あとアムレク、気遣ってくれてありがとう。