172.のんびり進んで街につく
「ボートランの街へようこそ。ジランドさん、お仕事ですか」
石塀で囲まれた街についたのは、ジランドの牛車に乗って三日目の昼過ぎだった。周辺は牧場で、のどか……ならいいんだけど、ジランドの牛車引いてる牛みたいにワイルド系ばっかりだった。ある意味防御になりそうでいいな、うん。ちょっと遠い目。
「おう。教会からのお達しでな、いつものように修行僧の足を仰せつかっている」
「修行中のファルンです。同行者の名簿はこちらに」
「お預かりします」
入口で衛兵さんに挨拶するジランドさんのセリフからすると、結構慣れてるようだな。マーダ教だってのを隠し通してきちんとお仕事としてやってるんだから、ある意味大したもんだ。
で、ファルンから通行手形を渡されてチェックしてた衛兵さんが、「こちらは?」と視線を向けた先にボロニアがいた。それに対して答えたのは、やっぱりというか知り合いであるジランド。
「こっちは古い知り合いのボロニア。途中で出会ってな、道案内とちょっとした護衛として雇った」
「そういや、悪ガキがいるとかおっしゃってましたね。お疲れ様です」
「わ、わるがき!?」
「自覚持て」
衛兵さん、以前にボロニアの話聞いてたっぽいな。その感想に思わず腰を上げかけたボロニアだったんだけど、ジランドの一撃で見事に凹んだ。そうか、悪ガキ扱いなんだ。
というか、それでいいのかボートランの衛兵。確認が大雑把すぎるぞ、うん。
「で、こちらは」
「邪神徒教育部隊、北大陸教区第十五部隊隊長サングリアスだ。邪神徒に襲われていたこちらの御一行を救出、同行してきた。どうかよしなに」
ここまで同行してきてくれた鎧娘を代表して、サングリアスが衛兵の問いに答えた。割と間違っていない答えが笑えるというか、うん。
その『襲ってきた邪神徒』がボロニアたち、っていうことは言わなきゃ分からないし、な。
「承ります。お務め、ごくろうさまでございます」
「うむ」
さすがにマール教の部隊なんで、衛兵さんもまるっきり疑う気配がない。あっさりと門を通過した俺たちと共に入ってきてから、サングリアスは俺たちに軽く頭を下げた。深々と、ってしたら絶対おかしいし。
「では、我々はここで失礼いたします。旅路の幸運を、我らの神に祈っております」
「おう、ありがとうございます。部隊の皆さんもお気をつけて」
「皆様の幸運を、我らが神にお祈りいたしますわ」
サングリアスの言葉にジランドと、そしてファルンが答えた。
あっさりと去っていく教育部隊は、その実シーラの配下となっている。今後はマーダ教信者を発見次第、保護あるいは俺たちに連絡を取ることになっている。どうやって取るんだろ、と思ったけどあちこちの教会の僧侶、俺吹き込んでるよな。
あとは……ま、何とかなるだろ。部下の一人とかこっちによこしてくれてもいいわけだし。
「……われらのかみって、どっちでしょうね?」
それはそれとして、ふとアムレクが口にした言葉にふふっとなった。サングリアスもファルンも、俺の下僕になってるからだ。
でもまあ、祈る相手まで強制したつもりはないけど。
「さすがにサブラナ・マール様ですわよ。わたくしにとってコータ様はご主人様ですけれど」
ほら、ファルンがそう答えてくれた。ここならいいけど、教会とかで祈る相手うっかり間違えるわけにもいかないもんな。
「何てーか、ややこしいんすね」
「そうでしょうか」
コングラの素直な感想に、ファルンは軽く首を傾げる。彼女の中じゃ『神様』と『ご主人様』が別々なんだろう、と考えればややこしくもないと思うんだが。コングラはうっかりイコールにしがちなのかな。
「ま、そこら辺は俺らにはわかりゃしませんや」
「私も分かりませんね……」
「カーライルにとっては、コータ様が主であり神であるからな。コングラも、そうなのだろう」
コングラとカーライルが顔つき合わせて難しい表情になってるのを、シーラが肩をすくめながら見ている。ははは、混ぜたら危険だぞお前ら。
「ミンミカにとっては、コータちゃまはコータちゃまですー」
おう、ありがとうよミンミカ。空気読まないお前さんのもふもふに、癒やされるわあ。