170.やっと正体ばらしたら
「ルシーラット様」
ふと、何かを思い立ったようにジランドが進み出てきた。まっすぐにシーラを睨みつけているのは、眼力で負けたくないとかそういうところかな。
「一つ、伺ってよろしいか」
「構わない。何だ?」
「そちらの嬢ちゃんは、一体何者なんですか」
お互い睨み合いになってからのジランドの問いは……ああ、嬢ちゃんってことは俺のことか。
「ルシーラット様は、先程からその嬢ちゃんに対して敬語お使いですやね。その理由、お聞きしたいんですよ」
「ふむ」
そんなふうに言われて、シーラは少し考えるように首を傾げてから俺に目を向けた。自分の一存では何も話せないよなあ、うん。
「いかが致しましょう、コータ様」
「まあ、いいか。変に話作っても、おかしく思われるだけだろ」
「承知いたしました」
許可を出した。ジランドたちはマーダ教信者だし、教育部隊は全員俺の下僕にしたのでそろそろ問題ないだろう。盗賊団に紛れ込んでいたスパイは……生きてるかなあ、えらくボコボコにされてるけど。
ま、いっか。
シーラが俺に対して敬語を使っている理由、ジランドやボロニアたちには分かってない。まあ、俺がシーラの崇めてる神様だからっつーことなんだけど。
そりゃ、見た感じでそれを理解しろなんて無理だよな。もし昔の俺の姿知ってたとしても、今のロリっ子獣人スタイルとイコールで結べるかどうかというと、なあ。
「よろしいんですか?」
「いい加減、ある程度の信者には俺が復活してるってバラしといてもいいんじゃね? それでマール教に漏れたら、それはそれだ」
「はあ」
カーライル、ちょっと心配してくれてるようだ。けど、これで俺のことが漏れてしまった場合この中に相変わらずスパイがいる、ということになるからな。ボロニアみたいに女なら吹き込めばいいけれど、男はもうやだぞ、俺。
「お許しが出た。話してやろう、皆の衆」
シーラはジランドやボロニア、その他俺の信者たちに向き直った。さて、どれだけ信じてもらえるのかね、この話。
「自分はルシーラットとして復活して以降、こちらのコータ様を主としてお仕えしている。その理由、分かるか」
「……ルシーラット様がお仕えしている、ということは……ルシーラット様より偉いお方、ということでしょうか」
投げかけられた質問に、おずおずとボロニアが答える。単純だけど、それが普通の答えだよね。そして正解、多分。
「その通りだ。自分を復活させてくださったのもコータ様だが、それはこの方が偉大なるお力を持つお方であるからだ」
「シーラ、ちょっと盛りすぎ」
「いえ、そんなことはありませんが。自分だけでなく、海王ネレイデシア様まで復活させてくださったではないですか」
「いやまあそうだけど」
確かに、レイダをネレイデシアとして復活させたのは俺だしな。
で、今の会話を聞いて盗賊たちが「海王様まで……」とざわついた。ああうん、分かる分かる。
もちろんジランドも分かるから、顔をひきつらせて確認してきた。
「ちょい待て。海王ネレイデシア様、といえば四天王の一角をなす海の王者たるお方では……」
「ああうん、まあ、そうだな」
俺にしてみりゃ、ロリスキーのタコっぱい姉ちゃんだけどさ。
「自分よりも、ネレイデシア様よりも偉大なる存在。それが、ここにおわすコータ様だ」
「ネレイデシア様よりも、って、え、えっ?」
「それ、いや、マジすか」
ボロニア、ジランド、あたふたしてるのもホント分かる。前置きが仰々しかったけど、それでもわけわからんだろう。
「コータ様こそは、我らが神、アルニムア・マーダ様の復活召されたお姿である。控えよ」
『は、ははああっ!』
シーラの凛とした声に従うように、今まで同行してきたみんな以外の全員がその場にひれ伏した。
わあ、何か時代劇みたい。すごく現実味のない光景だ。