169.やっとご理解いただけた
さて。
俺は誰かに使われた経験はあっても、誰かを使った経験はほぼない。
こっちの世界に来てからはそれなりに指示とかしてるけど、十三人もの大人数をまとめるのは、多分無理だ。例え、遠い昔にやったことがあるとしても。何しろ覚えてないし。
なので、そういうことがうまそうなやつに任せることにしよう。具体的にはシーラ、なんだけど。
「こいつらの統率はシーラ、お前に任せようと思うんだけど。いいかな」
「自分に、でございますか」
「うん。前のとき、部隊を使ってたことはあるんだろ?」
「はい。アルタイラ様より、部隊をお預かりしていたことがございますので」
だろうねー。そうでもなきゃ、二つ名を持ってて今に名前が伝わってるなんてこともないだろうし。
さて。一応、彼女たちをどう使ってもらいたいかは言っておかないとな。
「それなら頼む。もっとも、普段は本来の教育部隊として動いてもらうのが一番だけどな」
「マーダ教信者の捜索に利用する、ということですね」
「そうだ。分かってるじゃん」
「伊達に『剣の翼』は名乗っておりませんよ」
この辺は、シーラもすっかり物分りが良くなってくれて助かった。
そうそう、こいつらはもともとマーダ教信者を狩り出す部隊だったんだよな。つまり、そういう情報が集まりやすい。
マーダ教信者を見つけ出してくれる、ということは俺の配下を探し出してくれる、ってことだ。うわあなんて便利。
「……ええと」
こちらをぽかーんと見ているのは、ジランドたちとボロニア以下マーダ教盗賊団。そのうち、恐る恐るといった感じで出てきたのはボロニアだった。
「大真面目にあんた、『剣の翼』ルシーラット、様……?」
「そう名乗ったはずだが」
しれっと答えるシーラの顔は、少々不満げである。まあ、自分の偽者だって言われたんだもんな、仕方ないさ。
とはいえ、なぜか生まれ変わってここにいますよー、なんて話をいきなり信じるほうがおかしいんだよ。なあ、ミンミカ、アムレク。
……嬉々としてマール教スパイの足の裏をくすぐっているウサギ兄妹は、放っておこう。ありゃある意味拷問だし、見ないふり。
「た、大変失礼をば、いたしましたあっ! こらお前ら、きちんと頭を下げろっ!」
しかし、マジでルシーラットらしいと理解したようでボロニアは、自分の部下たちの頭をがしっと両手で押し下げながら自分も必死に頭を下げた。あーあーあー、まあ落ち着けお前ら。
で、シーラはしばらく、さっきのボロニアと同じぽかーんとした顔で彼女たちを見ていた。俺がこほん、と咳払いをしてやったことで意識を現実に引き戻し、困ったように笑いながら答えの言葉を紡ぐ。
「いや、構わない。ルシーラットとして復活したのはごく最近のことで、今も隠密理に動いているわけだからな」
「ですが、大変失礼をしたことに間違いはありませんから……」
「自分が良い、と言っている。それより」
それでも恐縮するボロニアに、シーラは顔を引き締めて真剣な表情になって、そして。
「長きに渡り、我が配下として思いをつなげてくれていたことを感謝する。おかげでこのルシーラットは、再び忠実なる配下を得ることができたようだ」
お礼の言葉を言った。覚えていてくれてありがとう、ってことか。
「ルシーラット様……!」
「……そこまで感動すること、なんだろうな……」
「まあ、伝説のお方にお礼言われてるっすからねえ」
うわあ何か眩しいぞ、感動して両手の指組んでシーラを見つめてるボロニア。ほら、ジランドたちが唖然としてるし。
あとコングラ、お前ウサギ兄妹と一緒で空気読まないタイプか。悪くはないな、うん。