168.人の好みはさまざまで
「ふう。全部まとめてごちそうさまでした」
『お粗末様で、ございました』
しめて十三名、全てゴチになった。腹いっぱいである、満足満足。俺のシメの挨拶に、全員揃って頭を下げるのは愉快だ。
どうでもいいけど、全員可愛いもしくは美人だった。鳥人も獣人も魚人もいない、人間の女の子だけの部隊。
中でもリーダーの子はキリッとした感じの青髪色白、多分この大陸で生まれたんだろうなあって冷たいイメージの美人で。それが俺に吸われて吹き込まれて、やっぱりキリッとしてるのは変わらないんだけどどこかうつろになった目がもう、いい感じ。
うむ、すっかり邪神だな、俺。
「精気吸うタイプの獣人だったのかよ、嬢ちゃん」
「まあ、はい」
ジランドに呆れ声で尋ねられ、一応頷いておく。獣人じゃなくて邪神ですよー、なんて……あ、言ってもいいのか。この人もマーダ教みたいだし。
「いや、吸うだけなら良いんですけどこの子、下僕作るタイプじゃないすか」
同じくマーダ教らしいコングラが、小さく身体を震わせる。あー、俺は男を吸うのは趣味じゃねえ、とこれも言っても良いことか。
と自分が口を開く前に、ジランドがフォローを入れてくれた。
「俺たちはタイプじゃねえんだろ。吸う方にも好みってもんがあるんだぜ、なあ」
「それはもちろん」
何だ、ジランド良く分かってんじゃねえか。そうそう、こっちにだって選ぶ権利ってものはあるんだから。
「そうなんすか?」
「当たり前だろ。飯だって結婚相手だって、それぞれ好みが違うんだから」
「はあ」
コングラの方はあんまり納得してない顔なんだけど、まあそこらへんはおいおい。
分からないこともあるよな、と思いつつ俺は、おとなしくなった鎧娘たちのリーダーのところに向かう。しれっとついてきたカーライルが、「コータ様」と声をかけてきた。
「正体をおっしゃらなくてよろしいのですか? 配下についてくれることは間違いないかと」
「どうやって証明すんだよ。ミンミカやアムレクが信じてくれたことの方が、俺には不思議だぞ」
「……はあ」
いやほんと、何であのウサギ兄妹は俺がアルニムア・マーダだとあっさり信じてくれたのやら。
というか、自分で自分がほんとにその邪神当人なのか、分かってないもんな。少なくとも、邪神な存在であることは間違いないんだけど。
まあ、邪神ムーブしまくってる時点で何をいまさら、って感じだけどな。ともかく、リーダーに話を聞こう。
「お前、名前は何という。ついでに今、マール教でどんな地位にいるのかも教えてくれ」
「……サングリアス。邪神徒教育部隊、北大陸教区第十五部隊隊長。教主様より北大陸教区を任されております『翼の姫』ルッタ様の直属の部下、にございます」
「翼の姫……」
「……む」
『翼の姫』ルッタ。
近くにいたシーラがその言葉に反応して、露骨に嫌な顔をした。
まあ、『剣の翼』と『翼の姫』て何かかぶるもんなあ。マール教の方も、二つ名のネーミングセンスはこちらとどっこいってところか。
「『翼の姫』って、つまり鳥人ってことか」
「御意。剣の腕は大変素晴らしく、また教主様のお側に侍ることを許されたお方です」
あーあーあー、やっぱり。カーライルが露骨にいやーな顔になった。地味に潔癖なのかね、お前さん。
てかマール教教主、鳥人でもいいんだ。いや、俺が言えたことじゃないけどさ。