167.喧嘩終わればご褒美タイム
鎧娘たち全員がひっくり返ってしまえば、後は早い。
こちら側は見事に戦力温存……温存? まあいいか、ともかくみんな無事だし。
「全員、拘束終わりました」
「おつかれー」
シーラがそう言ってきたのは、多分終わってからものの十分も経ってないくらいだった。俺とマール教側盗賊共以外のほとんどが、鎧娘縛り上げてたわけだしな。
なお、ロープはジランドの牛車に結構長いのがあったので、それを使ったらしい。壊れた時の応急処置とか、車輪が泥にめり込んで動かなくなったときとかに使うんだって。
「ボロニア殿、ジランド殿。そちらをおまかせしてよろしいか」
「え? あ、ああ」
シーラがそちら、と言ったのはマール教信者だった盗賊数名のこと。
ボロニアはじめ基本的にはマーダ教信者で構成された盗賊団を、おそらくは教育部隊に突き出そうとしたスパイの皆さんである。そら、一応トップであるボロニアとか、その彼女と顔見知りらしいジランドに任せるのが一番だよな。
もちろん、シーラに名前を呼ばれた二人はとってもやる気である。ジランドなんか既に、指ばきぼき鳴らしてるし。
「そうだよなあ。まさか、マール教のスパイがいるなんて思わなかったし、なあ?」
「……何も吐かなくていいぞ。単純に痛めつけたいだけ、だからな」
ボロニアの方は、逆に感情がなくなった顔してる。たまにいるんだよな、ああいうの。アレのほうが怖いぞー。
……俺も、誰かがスパイだったら怒るかな。俺の場合、基本的には吹き込めばいいから何とかなるとは思うけど……気をつけておこう、うん。
ボロニアのスパーリングかっこ俺命名が始まったところで、俺は教育部隊というか鎧娘軍団の方に向かった。えーと合計十三人、リーダーと参謀含む。
「コータ様」
「下っ端から行こうか。リーダーっぽいのと助言してたのとは最後だ」
「分かりました」
見張っていたカーライルに、手早く指示を出す。いや、こういうのって親分クラスを最後に持ってくるのが悪役っぽくね?
というか、外見ロリっ子獣人な俺が残念イケメンに指示出してるのを見て、鎧娘たち愕然としてるよ。うんうん、分かる分かる。
見てくれがこれだから、俺が大ボスだとは本気で思ってなかったんだろうねえ。
「こちらからでよろしいですか? ミンミカ、アムレク、手伝ってくれ」
「はーい」
「おさえとけばいいんだよね?」
カーライルが選んでくれたのは、鎧娘の中でも大柄な身体つきのやつだった。ウサギ兄妹が両腕を抑えたところで俺が兜を外すと、ぼさぼさの短い黒髪が出てくる。ああ、気がきつそうな顔してるな。
「何をする気だ」
「すぐに分かるよ。いただきます」
ぎりっと睨まれたけど、そのくらいは何でもない。俺も睨むように目を細めてから、唇を重ねていきなり多めに吸った。いやだって、うっかり全力で抵抗されたらしんどいじゃん。
「う、んふ、んううっ」
「おわ」
「うーわー」
何か声がした。あの声、ジランドとコングラだな……あー、そりゃうわーとか言うか。ジランドの向こう側からはボロニアがマール教スパイに罵声浴びせてるっぽいのが聞こえてるんだけど、あっち大丈夫かね。
「コングラ、見るか見ないかどっちかにしろ」
「じゃあガン見します」
「潔くてよろしいですわ」
ガン見してるのかよコングラ! いやいいけど、別に減らないし。あとファルン、のほほんと褒めてるんじゃない。
ともかく、頭の中でツッコミを入れつつ俺は、吸っただけ自分の気を彼女に送り込んだ。
「ん、ん、んんっ……んううん」
よしよし、馴染んだかな。
ああ、他の鎧娘たちの視線が絶望に染まってるのが、何か分かる。
お前ら、俺に楯突いたらこうなるんだよ。いやもう、全力で邪神ムーブしてるよね、俺って。