166.買った喧嘩をのんびりやって
「……とはいえ」
「ぐふっ!」
「剣士が相手を殺さない、というのはなかなかに難しい」
どすっという鈍い音に紛れて、シーラがこぼした愚痴が聞こえた。いや、確かにそうかもしれないけどさ。
金属鎧の上から、鞘入り剣の一撃食らわせて相手を昏倒させるようなパワーの持ち主だと、ステゴロでも殺せそうだよな。無茶言った俺が悪かった。
とはいえ、こいつらを全部下僕にして俺専用部隊にしちまったほうが、後々の危険が少なくなるのは事実だろ。
要は、俺の存在が向こうにバレるのが遅れるわけだしな。一人でも逃したら、そいつから最低でもシーラのことがバレるから。
「とおりゃ!」
「えいっ!」
「きゃっ!」
ずだん、がしゃんと金属が何かにぶつかる音がする。ああ、鎧娘たちが何人か転んでるのか。
そんなに足元悪いわけでもないし何でだ……と思ったら、すぐに理由が分かった。
「にんげんて、あしあまりつよくないですー」
「ぴょんぴょん跳ね回りおって、ウサギが!」
「ぼくたち、うさぎだからぴょんぴょんはねるんだよー。えいっ」
「わあっ!」
いつものように空気を全く読まないウサギ兄妹が、身軽に鎧の間をすり抜けながら足元を蹴り飛ばして転ばせている。
全身鎧ってわけじゃないからすぐに立ち上がれるんだけど、ほんのちょっとの間彼女たちに隙ができるのは仕方がない。そこにジランドやコングラが走り込み、首に手を当てたり腹に一撃ぶっこんだりして昏倒させている。
案外何とかなりそうだ、と楽観視しすぎるのもアレだけど。実際、ボロニアとかはほとんど役に立ってないし。ただ、そこら辺走り回って邪魔なだけで……あ、鎧娘ごとシーラにどつき倒された。
「これで五人目、と。鳥の姉ちゃんもそうだけど、お前さんたちも強いな」
「ありがとですー」
「あーもう、話してる暇があったら手伝ってくださいっ! そこの逃げ回ってるだけのお前ら、やれよ!」
……あ。コングラのやつ、相手の攻撃かいくぐりながらひっくり返った鎧娘拘束してら。めちゃくちゃ手際がいいな、あいつ。
あいつに呼ばれて、盗賊組は慌てて鎧娘拘束側に回った。ああ、そっちの方が得意そうだもんな。
「……コングラ、手際良いな」
「ジランド殿が前衛で、コングラ殿は後衛その他サポートという感じですね」
ぼそっと呟くと、しっかり聞いていたらしいカーライルが補足説明みたいな感じで答えてくれる。見たまんまではあるんだけど、確かにその他いろいろ、って感じだよね、あれ。
見ている間に十人近くが昏倒、そのほとんどがコングラボロニア盗賊組にひっくくられていく。あと……ええとリーダーと参謀込みで六人ってところか。あ、こっち向いた。
「あの子供を捕らえろ! 何か知っているかもしれん!」
「はい!」
いや、遅いだろそれ。あと、なにか知ってるも何も、お前さんたちの敵の総元締めだったりするわけだけど。
「コータ様、お下がりください。ファルン殿、頼む」
「あ、うん」
「はい」
こっちに向かってくる気配を感じて、カーライルが杖構えて仁王立ちになる。お前、その杖攻撃用じゃないだろうが。
ファルンも、鎧娘たちと違って戦闘に慣れてるわけじゃないしな……あ、一人転がされた。
でも、リーダーの手が、カーライルに。
「お前らいい加減におとなしくしやがれええええええええええ!」
「わあっ!?」
「ぎゃあっ!」
「がふっ!」
カーライルの身体をすり抜けるように、衝撃波を撃つことができた。まともに直撃食らった鎧娘たちが一気にふっとばされ、既に転がっている仲間たちに交じるようにぶっ倒れた。
おお、俺、もしかしてちょっとすごいかも。