165.売られた喧嘩をのんびり買って
「そこの僧侶。名乗れ」
「ファルンですわ」
邪神徒教育部隊、ってさっき言ったっけ。その先頭にいる、兜がてっぺんから房生えてたりするから多分リーダー格のやつがファルンと言葉をかわす。名前を確認したところで、推定リーダーのすぐ横にいる一人がコクリと頷いた。こっちは他のより軽装だから、参謀格とかそのへんか。
「ファルン。確か、ナーリアの村の教会から修行の旅に出た僧侶です」
「ええ。名前を覚えていただいていて、光栄ですわ」
「その僧侶が、今やマーダ教の手先とはな」
推定参謀の指摘をファルンが肯定し、その意味をリーダーが悟って腰の剣に手をかけた。スラリと引き抜いたそれは、多分量産型のやつ。ガイザス工房で見たやつと遜色ないと思うけど……シーラの剣と比べると、なあ。
「我らが同胞を貶めるとは……さすが、邪教の信徒だな。構わん、手に負えぬならファルンも含め、殺せ!」
『はい!』
リーダー、血気盛んだねえ。教育部隊っつーんなら、ちゃんと生け捕りにして洗脳調教しなくちゃ駄目だろう。俺みたいに。
ファルンもそう思ったのか、「あらあら」と苦笑しながらゆっくりと俺のところに下がる。代わりに前に出たのは、鞘をつけたままの剣を構えるシーラ。
「何だ。我が神の方が慈悲深いではないか」
ばさり、と翼を大きく広げてシーラは、多分笑ったんだろうな。一瞬、部隊の連中が足を引いたから。
「もっとも、殺してやったほうが慈悲であるかもしれんがなあ?」
ていうか、シーラも煽るなよ。あれ、できれば全部、俺が吸うつもりなんだから。怪我くらいなら何とか治るだろうからいいけどさ。
「ファルン、カーライル。コータ様をお守りしろ」
「言われませんでも」
「アレらはお任せします」
足を引いたのは一瞬だけで、十数人の鎧娘たちは横に広がっていく。ああ、こっちを囲んで戦うつもりか。
で、それに対してシーラの指示がこちらに来た。もともと戦闘に向いてないのは俺とこの二人だから、この配置は当然といえば当然。
そして、実は戦闘向きらしいウサギ兄妹は、シーラの右にアムレク、左にミンミカが配置を取った。
「ミンミカ、アムレク」
「ころしちゃだめなら、かえってらくです」
「あのよろい、ぼくたちのちからじゃ、たぶんころすところまでいかないですから」
いや、そうかな。多分喉笛に噛み付くとか顔に爪突き立てるとか、意外とやりようはあると思うぞ。
ま、そこら辺は当人の判断に任せよう。
「ジランド殿、コングラ殿、ボロニア殿……だったか。お手伝い願えるか」
「ああ、構わねえぜ。殺さなくていいんだな」
「うへえ。ま、教育部隊ってこたあ可愛い子ばっかりみたいですし」
「ルシーラット様の偽者につきたくはないけど……この際、致し方あるまいな。いくよ、あんたら」
『へ、へいっ!』
あら。ジランド・コングラコンビはいいとして、ボロニア以下マーダ教盗賊まで味方につけちゃった……そりゃそうか。
相手は武装したマール教信者で、教育部隊とか言いながらこっち殺す気満々だもんな。
んでボロニア、その鳥人姉ちゃんほんとにルシーラットだからな。終わってから何とか説得しよう。
本物だって分かれば、多分味方にはなってくれそうだし。
「いざ、参る!」
シーラの雄叫びを合図に、俺の配下プラスいろいろとマール教鎧娘部隊がぶつかった。
さて、何人吸えるかな……なんて考えているのはもう、すっかり悪者だよねえ。何というか、そりゃ邪神って言われるよな。




